昨年11月24日に73歳で亡くなった作家伊集院静さんが毎年、1月の成人の日に「新成人」へ、4月1日に「新社会人」へ贈る言葉が掲載されたサントリーの新聞広告を読むのが楽しみだった。今年はもう読めないのかと思っていたら、「成人の日」の1月8日の全国紙の朝刊に「誇り」というタイトルで、新成人に向けた伊集院さんの原稿が載っていた。生前の10月に書かれたものだという。伊集院さんは10月初めに「肝内胆管がん」の治療のため執筆作業を休止することを発表していたから、これは最後の原稿の一つなのだろう。その一部を抜粋する。
「誇りをもって生きることは、それは私たちの務めである。誇りとは何か?それは信念をもって歩いていくことだ」「そこには必ず生きる喜びがある。君の人生の肝心がある。さあ、頑張って私たちの明日に向かおう」
サントリーによる、この新聞広告は最初に直木賞作家の山口瞳さん、そして、脚本家の倉本聰さんが書いており、伊集院さんは2000年から書いていた。「新成人」、そして「新社会人」と若い人を対象にしたものだけれど、その言葉の一つ一つは、すでに「成人」の何倍も年齢を重ね、会社勤務の「社会人」を卒業した者にも、心が響く言葉が多かった。
伊集院さんは「新成人」「新社会人」への言葉を書く上で、伝えたいことは「ひとつしかない」と言う。それは「私たちは君たちの夢を信じている、ということだ」と。夢を手に入れるためにどうすればいいのか分からない若い人たちに「手がかりを言葉にしたつもりだ」という。ただ、それは若い人に限らないだろう。高齢化社会の今、人生の晩年にさまよう大人たちも多く、伊集院さんは「大人になったつもりでも、いまだに迷っている大人たちにも十分な示唆をあたえてくれるはずだ」とも言っている。新成人への言葉はこう結ばれている。「大切なものを抱いて、進むんだ」。60代、70代の「若者」にとっても心強いエールだろう。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)




