井上ひさしさんの作品を続けて見ました。新宿の紀伊國屋サザンシアターのこまつ座公演「マンザナ、わが町」とパルコ劇場公演「うま-馬に乗ってこの世の外へ-」です。

「マンザナ」は、太平洋戦争の開戦直後に米国のカリフォルニアの荒れ地に強制収容された日系アメリカ人女性たちの姿を描いた作品で、1993年の初演以来、何度も見ています。井上さんの戯曲は70作ほどあり、その大半〈60数作〉を見ていますが、「うま」は初めてでした。それも当然で、まだ上智大の学生だった井上さんが24歳の時に書いた作品で、一度も上演されることもなく、埋もれていました。陽の目を見たのは、4年前にテレビ東京系「開運!なんでも鑑定団」に鑑定依頼があったのがきっかけでした。

依頼者の亡くなった夫が20代の時に在籍した「東京小劇場」という劇団の演出家から譲り受けたという舞台台本で、鑑定の結果、井上さんの署名もあり、筆跡などから本物と認定されました。依頼者の本人評価額は50万円でしたが、鑑定では300万円の値がつけられました。その後、幻の未発表原稿として文芸誌に掲載され、単行本にもなりました。

今回が満を持しての舞台化でしたが、後年の井上戯曲の面白さが、原石のようにいっぱい詰まった、心揺さぶられる舞台でした。主人公の太郎を演じた小瀧望の言葉巧みに周囲の人をだましていく悪党っぷりは痛快でした。舞台俳優としての成長を感じました。演出の藤田俊太郎も、若きゆえの井上戯曲の小さな穴を大胆かつ緻密な演出で埋めていき、残酷だけと普遍性ある見事な舞台に仕上げました。再演を重ねてほしい舞台の誕生でした。【林尚之】