この作品は、3つの物語で構成される。北海道・洞爺湖近くで1人暮らしするマキは初老。東京・八丈島で、5年ぶりに帰郷した娘の妊娠に動揺する誠は中年。元恋人の葬儀のために大阪・堂島を訪問した、れいこは若い女性。主人公の世代も舞台もバラバラだ。

一見、オムニバス映画に見えるが、3つの物語は地続きになっている。性別適合手術を受け女性として生きてきたマキは、6歳の次女が性暴力を受けて亡くなってから47年もの間、喪に服し続けている。誠と娘の海は、交通事故に遭った妻であり母の延命治療を止めてしまった罪の意識を、ともに抱えている。れいこはレンタル彼氏を買ってホテルに入るも、6歳で性暴力の被害に遭い、元恋人ともセックスができなかったと打ち明ける。過去のつらい出来事で心にできた傷、欠損と向き合い、葛藤する人々の物語が連なり1本の映画となっていることは、ラストでさらに明確になる。

三島有紀子監督は、15年「繕い裁つ人」をはじめ、市井の人々の日常を静かに、美しく描いてきたが、10作目の監督作となった今作は明らかに一線を画する。75年に大阪・堂島で自らが受けた性暴力事件の現場を、21年6月にロケハンで訪れ、初めてテーマとして向き合えると、今作を自主製作した。自らの傷を乗り越えた作家の魂は、性、年齢、環境を超えて、多くの人の心に何かを語りかけるはずだ。【村上幸将】

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