天才音楽家というベートーヴェンのイメージは、でっちあげられたものだった…。耳が聞こえないベートーヴェンと筆談した会話帳を、秘書だったシンドラーが改ざん、廃棄していたことが1977年に判明するまで100年以上、人々がだまされ続けたスキャンダルの真相に迫ったノンフィクションを実写化した。
ベートーヴェンを演じた古田新太が「ドイツ人役をやるの初めてだからさ。ドイツ人、誰ひとり使っていない」と語ったように日本人俳優がドイツ人を演じた。舞台では普通に行われていても、映画では違和感を覚えそうなところを、そう感じさせないのは、脚本のバカリズムが、日本の中学生が頭の中で周囲の先生をベートーヴェンらに“脳内キャスティング”したという、映画独自要素を加えた部分が大きいだろう。
山田裕貴にとって、公開中の「木の上の軍隊」(平一紘監督)に続き今年2本目の主演映画となる。ベートーヴェンとのシーンは筆談で「しゃべるシーンが、なかなかない」中、どんなに疎まれようとも一点の曇りもない、羨望(せんぼう)のまなざしだけで感情の全てを表現。ベートーヴェンの死後は、イメージを絶対に守ろうと事実を改ざんし続けていくうちに、瞳には狂気さえ宿っていく。「異常なことをやっているのに、真っすぐな目をしている。本当におかしいのは、こういう人。シンドラーが憑依(ひょうい)しているようにキモい」とバカリズムも驚く山田の目の芝居が、作品の方向性を決定的にしている。【村上幸将】
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