大阪府吹田市の拳銃強奪事件は、23日で発生から1週間を迎えました。強盗殺人未遂容疑で逮捕された飯森裕次郎容疑者(33)は、空き巣の虚偽通報など、周到な計画性がうかがえます。一方で事件後の行動には不可解な面も多く、動機は依然として不明のままです。飯森容疑者が事件後、潜伏した大阪府箕面市の山中へ、同容疑者が登った同じ時刻に入ってみました。

箕面市外院3丁目から北へ延びる「ウツギ谷林道」の林道口に立ったのは午後8時すぎ。近くの民家の窓からは明かりが漏れています。スマートフォンの簡易ライトをオンにして、山の中へ入りました。

飯森容疑者とみられる男が箕面市の山中の方向へ向かう様子が周辺の防犯カメラで最後に確認されたのは16日午後8時すぎでした。17日早朝に身柄を拘束されるまで、山中に潜伏していたとみられます。

林道口から2分も歩くと、道は狭まり、両サイドにはスギやヒノキの大木が現れます。ライトが照らす範囲以外は、真っ暗です。ライトに大きな羽根のガが集まってきます。払いのけても、払いのけても、ガの突撃が止みません。ガの“攻撃”を避けるため、ライトを消してみました。漆黒の闇です。

再び歩き出すと、舗装された道は消え、土の道になりました。林道の横には小川が流れています。歩き出して数分、そのときでした。なにか、動物が目の前を横切り、小川の方向へ走りました。茶色い、小さな動物…。一瞬、後ずさりしました。ライトを照らし、捜索してみましたが、見つかりません。気のせいか…。いや、確かに横切ったはずです。

林道を奥へ進むと、大木が倒れ、山の表情が一変します。箕面市で森林を守る活動を展開しているNPO法人「みのお山麓保全委員会」によると、17年10月の台風21号で、「明治の森箕面国定公園」を含む広大な「箕面の山」は倒木などの大きな被害を受けたそうです。箕面の山には多くの林道があり、ハイキングコースとして親しまれていますが、「ウツギ谷林道」も倒木や土砂が林道をふさぎ、一時、利用ができませんでした。

飯森容疑者が歩いた「ウツギ谷林道」は「勝ち運」の寺・勝尾寺(箕面市粟生間谷)に至ります。「ウツギ谷林道」の近くには勝尾寺に至る別の林道口も複数あります。なぜこの「ウツギ谷林道」を選んだのか? ナゾが深まります。

地元の70代の男性は言います。「地元の住民は散歩したりするけど、ハイキングをする人か、マウンテンバイクの愛好家以外はあまりウツギ谷林道を知らないと思うよ。住宅街を抜けてくると、林道口も分かりにくいしね」。高校時代まで大阪で過ごした飯森容疑者ですが、「箕面の山」にも土地勘があったのでしょうか。

「ウツギ谷林道」の林道口の近くには「勝尾寺古参道」の林道口もあります。「みのお山麓保全委員会」によると「勝尾寺古参道を利用するハイカーを100人とするなら、ウツギ谷林道を利用するのは20人」。潜伏先を選ぶ際、計画的に利用者が少ないウツギ谷林道を選んだのでしょうか。 事件から5時間余りで山中近くに移動した飯森容疑者。ここでも不自然な行動をしています。午後8時すぎまで、コンビニと山中へ向かう途中の住宅街を行き来する姿が複数の防犯カメラに残されていました。

身柄を拘束されたのは、箕面市外院3丁目の林道入り口から北へ約800メートルの山中。丸太を3つ組み合わせた木製のベンチでした。目を開けたまま、リュックを枕がわりにして、横たわっていました。

林道口からベンチまでは夜中に歩くと約15分、かかりました。道中では小動物が横切り、冷や汗をかきましたが、なんとかベンチに到着しました。ライトを消すと、真っ暗です。スマホの電波も通じません。

水の流れる音、カエルの鳴き声…。そしてポツンと1人。暗闇に目をこらして、林の中を見つめていると、遠くで「ガザッ」という音が聞こえたような…。その方向に目を向けると、林の中で光る2つの目。イノシシ? シカ? いや気のせいか…。

暗闇は恐怖心を高めます。途中までは木々の隙間から街の明かりが見えるところもありましたが、ベンチからは何も見えません。ただ偶然ですが、箕面の街を走る救急車のサイレンの音がはっきりと聞こえました。

虫よけやスマホの充電器を購入し、山に入った飯森容疑者。捜査本部は山中で潜伏する計画だったとみて調べています。ただ虫よけなど“装備”を整えたにもかかわらず、午後8時すぎまで、人里と山中を行ったり来たりしていた可能性もあります。コンビニではカップ麺に湯を入れて店外で食べる姿も目撃されていました。

もっと山の奥に逃走することも可能だったかもしれません。暗闇の中、同時刻に歩いてみて、感じたことがあります。人里から徒歩約15分、約800メートル。ベンチから街の明かりは見えませんが、街の気配を感じることができる距離でした。

事件直前、飯森容疑者は中学高校時代の同級生の住所を聞き回っていました。空き巣の虚偽通報では実際の同級生の名前と、同級生の実家の住所を伝えていました。住所を入手する際、「同窓会を開きたい」などと説明していたようです。約12年ぶりに疎遠になっていた中学の同級生に、フェイスブック(FB)を通じて住所を聞いていました。かつての同級生らに必要以上に接触していたようにもみえます。

人里から約800メートル。飛躍しすぎた見方かもしれませんが、飯森容疑者は、山奥のもっと深い闇に溶け込みたくなかったのかもしれません。街の気配をギリギリ感じることができるこの距離感での「プチ山ごもり」。この人里との距離感は、飯森容疑者と社会との距離感に似ているでは…。山を下る途中、ふと、そんなこと思いました。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)

箕面市外院3丁目から北へ延びる「ウツギ谷林道」には何カ所も倒木がある(撮影・松浦隆司)
箕面市外院3丁目から北へ延びる「ウツギ谷林道」には何カ所も倒木がある(撮影・松浦隆司)
箕面市外院3丁目から北へ延びる「ウツギ谷林道」は奥へ進むほど、暗くなる(撮影・松浦隆司)
箕面市外院3丁目から北へ延びる「ウツギ谷林道」は奥へ進むほど、暗くなる(撮影・松浦隆司)
「ウツギ谷林道」出入り口はイノシシよけの柵と立て看板がある(撮影・松浦隆司)
「ウツギ谷林道」出入り口はイノシシよけの柵と立て看板がある(撮影・松浦隆司)