将棋の服部慎一郎六段(25)と冨田誠也五段(28)が「もぐら兄弟」のコンビ名で、大阪市内で行われた漫才日本一を決める「M-1グランプリ」1回戦に挑戦しました。将棋界からはM-1への参戦は初めてでしたが、無念の敗退。初挑戦の裏側には2人の「葛藤」がありました。

1回戦のネタ時間は2分。将棋の師匠ネタをつかみに、観客の笑いを取り、ステージを終えた冨田五段は「すいません、ネタを飛ばしましたわ」と快活に笑い、「まあ、でもやりきりました」と満足そうでした。一方のボケ担当の服部六段は「やり切れなかった」と右手をアゴに置き、反省のポーズです。

冨田五段は「出場することに抵抗はなかったが、出場することの難しさがある」と打ち明けました。出場する以上は笑いに真剣に取り組みたい。その思いは「ネタを完成して仕上げる難しさを感じた」そうです。

本番までにネタ合わせには何十時間も費やしましたが、約束事がありました。練習将棋を終えてからネタ合わせをする。

M-1出場には「何やってんだ」の厳しい声もあり、本業の将棋で負けられないプレッシャーがありました。

22年には「新人王」に輝き、名前から「忍者」の異名もある服部六段は棋士仲間からは親しみを込めて「はっとり君」と呼ばれています。漫才コンビを組んでから「将棋も頑張らなければいけないと思った。負けると、けっこう言われそうだったので、将棋も気合が入った」。

M-1出場には相乗効果がありました。

服部六段は本年度の成績は9勝1敗と絶好調。本年度、順位戦C級1組に昇級した冨田五段は6勝4敗と勝ち越しています。

笑いを取ることができましたが、冨田五段は「鮮やかに寄せた? 寄せ切れなかったですね」と笑顔で振り替えしました。服部六段は「覚えたつもりだったが、練習でもなかった(セリフ飛ばしを)初めてやってしまった。終盤にさしかかっているところだったので、そこで修正力がなかったのが悔しいです」と悔しそう。

将棋の対局とは違い、2分間の“超早指し戦”は独特の緊張がありました。「人生としていい経験ができた」と冨田五段。高校時代に友人とコンビを組み、文化祭で漫才を披露したことのある服部六段は「1回、M-1に出てみたかった。高校のときとはぜんぜん、雰囲気が違った」。笑いという「ステージ(盤面)」で駒をぶつけた2人の顔には充足感がありました。

【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)

大阪市内で行われた漫才日本一を決める「M-1グランプリ」1回戦に挑戦した服部慎一郎六段(右)、冨田誠也五段(撮影・松浦隆司)
大阪市内で行われた漫才日本一を決める「M-1グランプリ」1回戦に挑戦した服部慎一郎六段(右)、冨田誠也五段(撮影・松浦隆司)