ウエンツ瑛士(34)が、自然体になって帰ってきた。18年10月から約1年半、英ロンドンに留学。今年3月に帰国して仕事に復帰し、テレビのバラエティー番組や舞台のステージで留学前と変わらずマルチに活躍する。だが、心の持ちようは以前と全く違うという。

★走り続けた30年弱

「秋晴れですね! 気持ちいい~!!」

真っ青な空に手を伸ばす。撮影場所を室内に移していすに座ると、「こんな感じですか?」と陽気にポーズを決める。英国留学をへて、3月に復帰。「もちろん全てのことに全力投球ですが、今は変な力は入れずに、気持ちも楽に仕事ができています」と変わらない笑顔を、さらに柔和に輝かせた。

一緒に遊ぶ予定だったキッズモデルの友人を迎えに行った際、声を掛けられ芸能界入りしたのが4歳の時。1度、1年ほど芸能界を離れた時期もあったが、気が付けば30年弱。モデル、役者、歌手、バラエティー…。あらゆる顔を見せながら、走り続けてきた。

「今思えば、声を掛けてもらうことのうれしさが、いろいろなお仕事をさせていただく原動力でした」

★自分が崩れていく

周囲から求められることの喜びを実感し、人にも恵まれた。一方で、徐々に自分自身が崩れていく感覚もあったという。順風満帆に見えた裏側で、人知れず葛藤していた。

「小さい頃からやってきて、仕事が自分の中心にあって、仕事のことを考えない時間というのはありませんでした。そんな自分の中心にあるものがなくなったらどうなるんだろう? という不安もあれば、仕事をやってもやっても満足できなかったり…という日々が20代後半あたりから続きました。演劇の本場に挑戦するというのもありましたが、『自分の人生だから』という言葉が心の中で湧いてきたこと自体、自分の変化でもあったので…」。迷わず海を渡る決意をした。

★厳しい環境を選び

最初の8、9カ月は、朝から語学学校に通いながら、ワークショップやボイストレーニングに通った。

「語学学校も、日本人がとにかくいなくて、厳しいところを選びました。ビジネスや大学受験のために集まるところだったので、レベルも高くて、とにかくついていく日々でした」

後半は演劇学校に通いながら、欧州各地の文化に触れ、作品にも出演した。

「自分の人となりを知るというか、自己分析はかなりしましたね。向こうでは、自分に関する質問をたくさん受けるんです。例えば『何で俳優をやってるんですか?』とか『信条を教えてください』とか。意外とこれまでちゃんと考えたことがなかったことを、自分で説明してくださいと。自分では特徴と思っていなかったことが他人から見たら特徴であったり、思ってもいない角度からの発言も聞けて新鮮でした」

★“普通”を最も実感

異国で多くの刺激を受けながらも、最も実感したことは“普通”だった。

「そもそも自分がタレントをやっているという認識がない人がたくさんいるということが、自分にとってはなかったことだったので…。こちらは『はじめまして』でも、向こうはテレビで見てくれていて『はじめまして』ではなかったりするので。別に日本で悪いことはしていたわけではないですけど、堂々と前を見て歩けるというか…。大げさにいうと『生活してるな』と思ったのは初めてかもしれないです。それまではいつも何かに追われていたり、例えばバラエティー番組も、次に出演がないと終わってしまう…と思っていました。その感覚は全くなくなりました」

★映画吹き替え担当

2日から公開中の映画「トロールズ ミュージック★パワー」の吹き替えは、帰国してから依頼を受けた。ミュージカルコメディーアニメで、上白石萌音(22)とともに美声をスクリーンで響かせる。

「お仕事の話をいただいて、やらせていただくという流れも新鮮でした。コロナの影響で、収録で一緒に萌音ちゃんと歌えない苦しさはありました。お互い、相手はこう歌うだろうと気遣いながらやりましたが、相手を思いやって何かをやる大切さにも気付きました。楽しい映画ですし、メッセージもシンプルでまっすぐなので、大人の方が響く作品だと思います」

★舞台も無事に完走

先月9~18日には、帰国後初となった舞台「わたしの耳」(東京・新国立劇場小劇場)に出演。収容の50%での開催となったが、無事に完走した。

「8月からけいこが始まって、本番前日までマスクは1度も取らなかったです。表情も完全に見えない形でけいこが進んだり、ソーシャルディスタンスをとりながら演技をしたり、配信にも挑戦したり、凝り固まっていた考えがほどけるようなこともたくさんありました。自分の成長を見せるぞ! というよりは、チャンスをいただいて、演劇を作れることに感謝の気持ちでいっぱいでした」

いい意味で肩の力が抜け、自然体で過ごしている。

「30代での目標ですか? よく聞かれるんですが、それが申し訳ないくらい全くないんです。帰ってきて楽しくお仕事をさせていただいてますし、家族とも楽しく過ごせていますし、バランスも良くなっていると感じているので、このままがいいなと。目標ができた時に、また言いますね(笑い)」

★人生楽しいものに

具体的な目標はないが、理想の男性像は、日本や英国で出会った演出家たちのような男性という。

「自分みたいに悩んでいた人間に、ピンポイントに言葉を持っている人になりたいです。それはその人自身がいろいろな経験をしているから持っているんだと思います。たくさん救われたので、そういう人たちのようになりたいです」

人それぞれ悩みはある。酸いも甘いも経験したからこそ、体現できることがある。

「何かにとらわれすぎず、人生を楽しいものにしていきたいです。自分のファンの方は、もう変化に気付いてくれていると思うんですけど、自分が経験をして今回のような話をさせてもらったり、自分が変わったという部分がメッセージになればと思います。結果はすぐ出るものではなくて、染み出てくるものでもあると思うので、それを待つ時間も大事だと思います。もし、今悩んでいる方がいたら、ゆっくりでも大丈夫だよと伝えたいです」自分のペースで、これからもお茶の間、客席に笑顔を届ける。【大友陽平】


○…留学を通じて人生観が変わったウエンツ。恋愛観や結婚観なども変わったのだろうか? 「結婚ですか? 今は実家で、母親っていろいろ思ってるんだなというプレッシャーは感じます。テレビを見ていて『この子かわいいね! 知ってるの? いい子そうなのになあ』って言ってきたりとか(笑い)。心配してくれてるんですかね。留学する時も親は『いいんじゃない? たくさん働いたんだし』という感じでした。いろいろ分かってくれていたんでしょうね」。

▼仲のいい友人の爆笑問題・田中裕二(55)

ウエンツがすごいのは、行動力があること。ロンドン留学も、ちゃんと自分で考えて勉強して、事務所に話して、学校を決めてしっかり実行した。テレビで見せているキャラクターとは、一味違っています。帰国してたくましくなったと感じました。仲良くなったのは、巨人と西武の日本シリーズで西武ドームに巨人を応援に行って偶然出会ってから。ウエンツは西武ファンなんだけど野球好き同士で、競馬も共通の趣味。今後は自身が一番興味のあるお芝居やミュージカルで頑張ってほしい。

◆ウエンツ瑛士(えいじ)

1985年(昭60)10月8日、東京都生まれ。米国人の父と日本人の母の間に生まれる。4歳からモデルとして活躍し、NHK「天才てれびくん」などに出演。00年に1度芸能界を離れるも、翌年に復帰。02年にNHK大河ドラマ「利家とまつ」などに出演。小池徹平(34)と音楽デュオ「WaT」を結成し、05年から4年連続でNHK紅白歌合戦に出場するなど16年まで活動。18年10月から英国留学。現在、日本テレビ系「スッキリ」(火曜)や「火曜サプライズ」などでレギュラー。大の西武ファンで、小さい頃の夢は「騎手になること」。170センチ。血液型O。

◆「トロールズ ミュージック★パワー」

米ドリームワークス・アニメーションによる新作アニメのミュージカルコメディー。ウエンツは米歌手ジャスティン・ティンバーレイクが声を演じるキャラクター「ブランチ」の日本語吹き替えを担当。公開中。

(2020年10月4日本紙掲載)