今、最も勢いに乗っている若手実力派俳優の1人だ。仲野太賀(28)。昨年は映画7本、連続ドラマ2本に出演し、注目作に引っ張りだこ。今年もすでに映画が2本公開され、17日スタートの日本テレビ系連ドラ「コントが始まる」(土曜午後10時)でも主要キャストを務めている。人気者の魅力を探った。

★自然体

取材前の軽い雑談にも、まっすぐ目を見て向き合ってくれる。飾らない印象だ。「コントが始まる」では劇中で主演菅田将暉(28)、神木隆之介(27)とともに、お笑いトリオ「マクベス」を結成。初の芸人役に挑戦しているが、自然体で構えている。

「わからないこともたくさんあります。でもこれまで自分がやってきたように、野球少年役だったら野球をやるし、料理人役だったら料理をするし、芸人さんだからコントもやるみたいな。その役らしいお笑いの挑み方みたいなものを突き詰められたら」

演じる美濃輪潤平役について「クラスですごい目立ちたがり屋な、学校で1番面白かったやつじゃないかな」ととらえている。

「お笑いを見るのはすごく好き。学生時代は笑わせるのが結構得意でした。イメージはしやすいかな」

「マクベス」は高校の同級生である3人で結成され、10年間売れないトリオという設定。

「(自分は)ボケの役。役柄的にはバランスを取っている感じもします。ただ、せっかく菅田、神木っていう本当にすてきな俳優さんとやるから、バランサーに徹さなくていいのかな。アンバランスでも何かしら形にはなるはずなので、いびつなキャラクターになっていけばいい」

ドラマの冒頭ではコントを披露する。10年間売れていないトリオのコントという難しさもある。

「人によって“面白い”のボーダーが全然違うので、そこを一番いいバランスでやらなければいけないのかな。スベっている風も寒いし、やっぱそれなりに10年続けてきたからには、お笑いとしての説得力は必要だと思うので。笑かしにいきますよ(笑い)」

菅田と有村架純(28)の視点で展開していった第1話とは異なり、次回(24日)放送の第2話は、仲野と神木の視点で物語が進む。

「1話の時に交わしていたセリフとか、実は角度を変えてみるとこういうことだったんだっていうのが少し分かる。じわじわと、染みていくようにメッセージがある。話が進むにつれてボディーブローのように、彼らの人生が見る人に投影されたり、育まれたり、そういう風になってくれれば」

★お仕事

俳優になったのは中学2年生の時。父が、さまざまな作品で活躍している俳優中野英雄(56)ということもあり、身近な職業だったのだろう。独特の表現で明かした。

「幼い頃からやりたい気持ちはありましたね。小6くらいからこの世界に興味を持ち始めて、(俳優に)なったっていう感じ。野球少年が、ドラフトに受かったみたいな。それが続いている感覚。そのまま来たっていう感じです。最初から完全にお仕事と思ってやっていましたね」

10代の後半から挫折も経験したが、そんな過去もしっかりと糧にしている。

「なかなかいい役をいただけなかったりとか、オーディションに落ちたりとか。俳優と自分が名乗ってはいるが、その他の人に認知されていなかったら、『おれって俳優なんだっけ』って思わざるを得なかった。今思えば当たり前の時間でしたけど、やっぱり志が高かった分、理想と現実の差にうちひしがれました」

ブレークのきっかけになったのは16年の日本テレビ系連ドラ「ゆとりですがなにか」で演じた、ゆとり世代の2年目会社員役。しかし、日の目を見ない時期も劇作家・岩松了氏や映画監督の深田晃司氏、石井裕也氏らに声をかけてもらったことが俳優を続ける原動力となったという。

「自分が尊敬する人だったり、好きな作り手の人だったりに手を差し伸べてもらっていたのがデカかったですね。全然何者でもない時に、面白がってくれた。それが自分の中ですごく支えになった。結局それが(脚本の)宮藤(官九郎)さんの『ゆとり-』につながったと思います」

挫折経験は、今回演じる役柄でもいかせる部分だ。

「10年間走ってきて、うまくいかなかったやつの疲れとか、悲哀みたいなものはすごく大事にしたいなって思いますね。(自分が)くすぶっていた時間も無駄じゃなかったと思います」

★いびつ

自身の武器を問うと、あっけらかんと語った。

「どこにでもいそうだからじゃないですか? 際立って二枚目なわけでもないし。背も別に高くないし。なんか、友達にいそうって。かなり得しているとは思います」

迷うことなく出てくる言葉に、自分自身を客観的に理解している印象を受ける。15年続けている俳優業の魅力を聞いた。

「普段会えない人に会えて、そういう人たちと一緒に仕事が出来て、面白いものが作れるっていうのがこの仕事の醍醐味(だいごみ)かな。僕自身、人との出会いはかなり大きいですね」

ドラマ、映画、舞台と幅広く活躍する。その演技力は、各方面から引く手あまただ。

「やっぱり、見てもらってなんぼなんで、そういう風に人を引きつけられる俳優じゃないといけないと思います。いろんな場所に行って経験を積んで、戻ってくるというか。全てが大切だったし、どの要素もなくてはならなかった気がしますね。すごくいびつなバランスで今があります」

知名度が上がるにつれて責任感も高まった。作品作りへの思いを熱弁した。

「面白いものって年々増えているし、ドラマとか映画って、一昔前までは、エンタメのど真ん中だったけど、果たして今そうなのかっていわれたら疑問だし、これからそうであり続けるかって言われたらちょっと自信ない。それでも振り向いてもらわなければいけないと思います。でもだからこそ、作品が常に誰かの人生の端っこにあるし、その居場所をちゃんと守って、いつ誰が手にとっても万歳して楽しんでもらえる1時間なり、2時間を提供していかなければいけないなとは思いますね」

最後に今後について聞くと、少し間を空けて、言葉を選びながらこう答えた。

「今もすごく幸せなんですけど、本当に…変わらずに…自分が信じている人たちと一緒に、もの作りができれば。もの作りをし続けることができれば。面白いものを、作り続けたいですね」

言葉の端々に充実感が漂う。スター俳優がそろう同世代の中で、今後も存在感を発揮し続ける予感がする。【佐藤成】

▼「コントが始まる」福井雄太プロデューサー

仲野さんは「心に直接思いを届けてくれる」役者さんだと思います。作品として伝えたいと思うこと、その登場人物の生きざま、画面に映る全てのことを自身の中で深く強く考えを巡らせてくれていて、かつ表現者として真っすぐに投げかけてくれる。普段からとても優しく、愛があって、ユーモアもあって、そして何より一生懸命な仲野さん自身の人間性も相まって、仲野さんの表現は心の深いところに直接思いを届けてくれるような、そんな力強さと温かさを感じます。今、共に作品作りが出来て幸せです。楽しくて仕方ありません。

◆仲野太賀(なかの・たいが)

1993年(平5)2月7日、東京都生まれ。06年フジテレビ系ドラマ「新宿の母物語」でデビュー。02年「フリージア」で映画初出演。08年映画「那須少年記」で初主演。連ドラでは「今日から俺は!!」「この恋あたためますか」など、映画では「生きちゃった」「すばらしき世界」「あの頃。」など話題作に多数出演。趣味カメラ。168センチ。血液型A。

◆ドラマ「コントが始まる」

売れないお笑いトリオ「マクベス」を演じる菅田、神木、仲野と、有村、古川琴音(24)の5人が織りなす青春群像劇。理想とかけ離れた人生を歩む20代後半の若者たちが想像しなかった“幸せ”とめぐり合う姿が描かれる。

(2021年4月18日本紙掲載)