昨年5、6月に予定されながら延期された、ワハハ本舗の全体公演「王と花魁」が、10月28日から全国14カ所で20公演行われる。コロナ禍で緊急事態宣言が延長された中、全体公演や笑いにかける思いを、1984年(昭59)の劇団創設以来のメンバーである女優柴田理恵(62)に聞いてみた。

★ポカッと穴があいた

昨年4月、初めての緊急事態宣言の中で、「王と花魁」の延期が決定した。

「最初から全部が延期になったので、ポカッと穴があいたみたいな感じになりました。その頃はテレビとかの仕事も全部なくなったので、こんなのは初めてだろうぐらいに家にいましたね。でも、いいよ、いつかは必ずできるだろうと思ってたけど、まさかここまで引っ張るとは」

公演が取りやめになったことで、改めて舞台の大切さを思い知った。

「世の中が一切ダメになるわけはないだろうとも思ってたけど、やっぱり舞台がなくなるっていうのは、こんなに寂しいもんかねと。テレビとか映画とかは、向こうからお仕事のオファーが来ないとできない。でも、例えばどんなに自分が売れてなくても、自分の力が未熟でも、自分がスランプで落ちこんでても、舞台だけはできると思ってやってきたわけですよ。三十数年、どんなに自分たちが小さな存在であろうが、小さい劇場を自分たちで借りてやれば、ちゃんとそこでは役者として成立するんだっていうはずだった。それが根こそぎ取られたみたいな気持ちになりました」

昨年10、11月には舞台「くちづけ」、今年5月には舞台「狸の里帰り」に出演した。

「去年の10月に舞台に出させていただいて、ちゃんとやりおおせた時に、舞台に立たせてもらえるってこんなにありがたいんだと思ったんです。もしかしたら、その大事なことを忘れてたのかもしれないなって。舞台っていつでも立てると思ってたけど、立てないことで、逆にありがたさを思い知ったと思います」

★梅ちゃんが一番困る

今年3月に延期されていた「王と花魁」公演が10月にスタートすることが発表された。ワハハの舞台は客席に深く分け入り、客を舞台に上げたりするのが大きな特徴。コロナ禍の公演では、それも制限される。

「うれしかったけど、やっぱり、ちょっと変わらざるを得ないんじゃないかなと。一番困るのは梅ちゃん(梅垣義明)。(鼻から)豆も飛ばせないし、客席にも行けない。4分の3くらいは客席にいますからね(笑い)。それでも、どこか隙間を探してやるのがワハハの底力だと思うので、大丈夫だと思います。何か、新しいものがあるのかなと」

★白石加代子見て衝撃

女優を志したのは、富山の高校生だった時。実家のそばに公演に来た、早稲田小劇場の女優白石加代子を見て衝撃を受けた。

明大文学部演劇学科で学び、東京ヴォードヴィルショーに入団。3年後の1984年(昭59)に仲間たちとワハハ本舗を旗揚げした。

「大学4年の時に東京ヴォードヴィルショーに入りました。舞台の稽古に入ってたんですけど(主宰の佐藤)B作さんにお願いして『卒業試験だけは受けさせてください』って。最初は真面目な感じのアングラに行きたかったんですけど、いろいろ見ていく中で面白さにはまるというか。お笑いの劇団で、若者から支持されてるのは東京ヴォードヴィルショーと東京乾電池。その両方を見て、やっぱりB作さんが好きだなと思って」

東京ヴォードヴィルショーで、ワハハ本舗主宰の喰始氏(73)や久本雅美(63)佐藤正宏(62)すずまさ(61)ら現在のワハハ本舗の仲間と出会った。

「ヴォードヴィルショーでは劇団の大きな公演を年1回にして、あとは若手公演をやっていいからって。その時に喰さんに作家をお願いしたんです。そうしていくうちに、劇団と若手の感じ方がちょっと違うとなって。で、若手公演は止めようみたいになって、この機運を逃したくないとワハハ本舗を旗揚げしました」

劇団の運営は本公演だけじゃない。東京の青山通りと六本木通りに挟まれた、一等地にワハハ本舗はある。

「いろいろな小さい劇団がつぶれている。借りた稽古場を転々としながら、小道具とか衣装も小さいアパートに分散して置いておく。喰さんが『芝居以外のところで摩滅して行くから、僕がお金を貸しますから稽古場を借りましょう』って。それが大きかった。みんなで手分けして稽古場を探してる時に、佐藤(正宏)君が今の青山の場所を見つけてきた。大家が大工さんで資材置き場だったんです。喰さんが敷金も礼金も貸してくださって。何年か後に、ワハハも貯金ができるようになって、喰さんにお返ししました。ありがとうって、受け取ってくださいました。その当時の200万円。とてもじゃないけど、当時の私たちに手の届く額のお金じゃなかった。稽古場さえあれば、そこで朝から晩までゲームしててもいいし、小道具も作れる。全然違うんですよ、芝居に集中することが」

★92歳母を遠距離介護

富山で鉄道会社勤務の父親と小学校教師の母親の間に生まれた1人娘。

「女優になっていなかったら多分、小学校か中学校の先生になっていたと思います。1人娘だったんですけど、3年間だけ好きなことをやらせてくれと。結局は3年やって、ワハハを立ち上げることになったんですが。今は、さすがに認めてくれています(笑い)。うちの両親の世代は、若い時に戦争があったから好きにできなかった。だから、自分たちの子供には、あいつがそういう風にやるんだったら見ててやろうと」

大学卒業から40年、ワハハ旗揚げから37年。5年前に父親が亡くなり、富山に暮らす92歳の母親を“遠距離介護”する。

「母は病院では死にたくない、自宅で死にたいんだって言うから、その望みはかなえてあげたいなと思ってます。自分は、これからも、きちんと役に取り組んで、年取ったばあさんでやっていけたらいいなと思っています。酒は飲んでますけれど、むちゃ飲みはしてないし、食生活に気をつけて、ちゃんと寝る。健康には気をつけています」

★コロナ禍の若者憂慮

コロナ禍で人の移動も集まりも制限される中、若者たちを思いやる。

「若い子たちは遊んでバカやって、プラスになることたくさんある。夜中までずっとけんかするように話して仲良くなったりとか。失敗して反省したりとか。みんな真面目に仕事するからこそ、夜中まで飲んだりしたんですから。私たちは夜中まで飲んだりしたことっていうのは、絶対にプラスになってると思うんです。酔っぱらってけんかして、どうやって謝ろうかと。本当に腹を割って話しあってね。今はSNSで本音で、面と向かっては建前だけ」

本音で語り合えるためにも、ワハハ本舗の笑いを届けたいという。

「ワハハを見て、笑ってもらってね。くだらないと思っていても、本音じゃないと心の底から笑えない。そのためにもワハハはあると思うので頑張って、この笑いは届けて行こうと思ってます」【小谷野俊哉】

▼ワハハ本舗主宰の喰始氏(73)

とにかくがんばり屋だ。ワハハ本舗を作る前の東京ヴォードヴィルショーの若手メンバーだった頃のことだ。映画「マッドマックス」に登場するクレージーな役どころだったので、「女性なのに頭をそり上げると面白いね」と軽く言ったことがある。と、次の日、柴田は本気のそり上げた頭になって現れた。その迫力はまわりの若手(男たち)を完全に食っていた。ただ、残念なことに、観客は皆な彼女を男と思い込んでいた。後で本人から聞いた話だが、「これでダメなら役者をやめる」という覚悟だった。

◆柴田理恵(しばた・りえ)

1959年(昭34)1月14日、富山県生まれ。明大文学部演劇学科4年の時に劇団東京ヴォードヴィルショーに入団。84年6月、ワハハ本舗設立に参加。99~00年にTBS系「3年B組金八先生」、06年にテレビ朝日系「7人の女弁護士」、14年にフジテレビ系「続・最後から二番目の恋」、17年にNHKテレビ小説「ひよっこ」、10年から日本テレビ系「女神のマルシェ」に出演。15年からニッポン放送「テレフォン人生相談」のパーソナリティー。156センチ。スリーサイズはB91・5-W69-H95センチ。血液型B。

◆ワハハ本舗全体公演「王と花魁」◆

▽10月28~31日 東京・新宿文化センター大ホール

▽11月6日 愛知・日本特殊陶業市民会館フォレストホール

▽11月7日 愛知・豊田市民文化会館大ホール

▽11月13日 大阪・フェニーチェ堺大ホール

▽11月14日 兵庫・神戸国際会館こくさいホール

▽11月21日 新潟・新潟テルサ

▽11月23日 富山・富山オーバード・ホール

▽11月27日 宮城・東京エレクトロンホール宮城

▽11月28日 山形・やまぎん県民ホール大ホール

▽12月3~5日 大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール

▽12月11日 群馬・桐生市民文化会館

▽12月12日 茨城・結城市民文化センターアクロス大ホール

▽12月18日 福岡・福岡サンパレス

▽12月19日 熊本・熊本市民会館シアーズホーム夢ホール

演出・構成は喰始(73)。

(2021年8月29日本紙掲載)