8代目尾上菊五郎(48)が誕生して約5カ月。歌舞伎座、大阪松竹座と襲名披露興行を重ね、11日から名古屋・御園座で興行が始まった。熱気に包まれた襲名を振り返った今、あらためて感じる大名跡への思いと決意を語った。ヒット映画「国宝」との縁も明かした。【小林千穂】
★千玄室さんの言葉
春から夏にかけ、歌舞伎界は8代目菊五郎誕生の熱気に包まれた。神田明神でのお練り、「古式顔寄せ手打式」、襲名披露興行は歌舞伎座で5月から2カ月連続行われ、大阪松竹座へ。御園座「吉例顔見世」は3座目の披露興行となる。
「少し落ち着いてきていますが、日ごとに菊五郎の重みというのを感じて、私が菊五郎として何ができるのかを考える日々が続いております」
父の7代目菊五郎(83)は名前をそのままにしたため、7代目、8代目の菊五郎が並ぶこれまでにない襲名となった。長男は丑之助あらため6代目尾上菊之助(11)を襲名した。3世代そろっているからこそ、感じることも多い。
「父から受け継いだものを次に伝えていくという重みです。菊之助の稽古をつけたり、父の背中を見つつ自分の芸を磨く時に、受け継いだ者の責任や使命を、せがれを見て感じ、父を見て感じています」
初代菊五郎が誕生して約300年。歴代は名優がそろう。大名跡を背負う思いは、プレッシャーという言葉は到底足りないだろう。本音を少しのぞかせた。
「名前を受け継ぐっていうことの重みだけを考えると、自分がつぶれてしまうような気がするんです」
原動力は、8月に102歳で亡くなった茶道裏千家前家元で、茶道を通して平和を訴えてきた千玄室さんの言葉や存在だ。会うことはかなわなかったが、お茶道具を使う場面が有名な「伽羅先代萩」のために、お茶も稽古してきた。
「千玄室さんは日本のすばらしさを世界に伝えるということが、特攻で先に亡くなった方々への弔いだとおっしゃっていました。私は、歌舞伎の魅力を世界の方にお伝えし、和をもって世界を良くしたい。それがモチベーションです」
普遍的な思いは、世界にも通じると信じている。
「世話物の温かさ、時代物にある自己犠牲は、親子愛や他人をおもんぱかる日本人が、一番大事にしている心。それを日本、世界にお伝えしていきたいです」
★新古演劇十種復活
新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」「ファイナルファンタジー10」を作ったことは大きな経験だ。
「若いころは、先輩たちのようになれるのかという不安はありましたが、古典演目を学ぶことに疑いはなかったんです。今は、純粋に古典だけだと伝わりにくいのかなということもある。せがれたちの世代が20代、30代になった時、安心して古典演目を勉強できる環境を整えたいと思っています。新作歌舞伎を作ることで、未来への架け橋を作りたいと思いました。また、新作を作ったことで古典の深さを感じました。言葉ひとつの重み、心情の深さは、現代の感覚ではとらえられないような奥深さです」
自身の芸としては、音羽屋、尾上菊五郎家の芸「新古演劇十種」の復活を目標にする。5代目、6代目菊五郎が制定したもので「土蜘(つちぐも)」「身替座禅」など、よく演じられるものもあれば、埋もれてしまった演目もある。
「十種をすべて当たり役にしたいという思いがあります。自分が手がけてないものもありますし、いくつかは世に出てないので復活させたいです。当たり役とは、皆さまが評価してくださった上でのことですが、そう言ってくださるように磨き上げたいです」
どのくらいの時間をかけて新古演劇十種を自分のものにするのか聞いた。
「70歳までにはすべて復活したいと思います」
動き続ける体でいるための心がけもある。
「食と睡眠、それしかないと思います。なかなか難しいですが夜10時には寝たいですね。玄米を取るようにしていますし、地方公演へは炊飯器を持っていき、お総菜を栄養士さんに作ってもらったりします。あとは、意識して深呼吸をすることですね」
自然と触れ合うことも好きで、SNSには登山の様子も載せる。
「山好きな同級生がいろんなプランを出してくれるんです。気分転換は本当に大事ですね。夏は家族で石垣島に行きました。菊之助とシュノーケリングしてウミガメにも会いました。『すごいね!』って言ってたら、お父さん興奮しすぎって(笑い)」
★長男菊之助と共演
御園座では公演前から、「まねき上げ」やお練りなどの行事も行われ大きな期待が寄せられた。口上のほか、「京鹿子娘二人道成寺」「鼠小僧次郎吉」に出演する。「鼠小僧-」は音羽屋ゆかりの演目、義賊と江戸の市井の人々を描いた。
「人と人とのつながりを大切にしていたということをお客さまに届けたいという思いで作られた演目です。その心を受け継いで、現代のお客さまに世話物の温かさをお届けしたいです」
5月歌舞伎座の襲名披露興行では、菊之助、坂東玉三郎と3人で白拍子花子をつとめ「京鹿子娘道成寺」を踊った。御園座では菊之助と2人の白拍子花子だ。
「菊之助の踊る部分も増えるでしょうし、私も踊り場が5月よりも増えると思いますので、おにいさん(=玉三郎)に教えていただいたことをふくらませたいです。『国宝』に絡めるわけじゃないですけれども、『道成寺』を見たいという声があるようですね」
ヒット映画「国宝」とは縁がある。オーディオエンターテインメントのオーディブルで6年前、原作小説「国宝」を朗読した。
「1カ月ほどスタジオに通い詰めました。朗読は初めてで、方言もありましたし、男女のキャラクター、やったことのない歌舞伎のキャラクターもありましたので、先輩方に聞きながらやっていきました」
未経験の役柄を、21年に亡くなった義理の父中村吉右衛門さんに教えてもらったことも明かした。「菅原伝授手習鑑」の「寺子屋」の場、武部源蔵という人物による有名なせりふだ。
「『氏より育ちというに-』というせりふを教えていただけますかとお願いしたら、分かったよって吹き込んでいただきました。その1節だけで私の宝物、国宝です」
来年まで続く襲名披露だけではなく、先を見つめて言う。
「古典でしっかりとお客さまに歌舞伎のおもしろさ、魅力をお伝えしなければいけない。菊五郎の名前を預かった人間の使命だと思っています」
▼長男尾上菊之助(11)
体力が本当にすごいと思います。去年からずっと休みなく舞台に出て、襲名披露をやって、9月も10月も舞台に出ています。本当に尊敬します。体調管理はしっかりするように見習っています。早く寝て、朝も二度寝しないように気をつけてます。御園座では(「鼠小僧次郎吉」の)三吉を演じるのが楽しみです。3年ぶりで身長も伸びたので、雰囲気も変えたいと思います。(「京鹿子娘二人道成寺」は)父と2人で踊るところも増えますので楽しみですし、グレードアップした踊りを見ていただきたいです。
◆8代目尾上菊五郎(おのえ・きくごろう)
本名・寺嶋和康。1977年(昭52)8月1日、東京都生まれ。7代目尾上菊五郎の長男。母は富司純子、姉は寺島しのぶ。音羽屋。84年、歌舞伎座「絵本牛若丸」で6代目尾上丑之助を名乗り初舞台。96年、歌舞伎座「弁天娘女男白浪」、「春興鏡獅子」で5代目菊之助を襲名。ドラマでは、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の出演が話題に。13年に中村吉右衛門さんの四女瓔子さんと結婚、1男2女をもうける。最近の趣味は山登り。







