女優の倉科カナ(38)は、「どんな役でも応える」を信念に役者の道を歩んできた。放送中のNHKBS時代劇「浮浪雲」(はぐれぐも、日曜午後6時45分)では幕末を生き、舞台「プレゼント・ラフター」(2月7日から、東京・PARCO劇場など)では大人のラブコメディーを彩るなど、その演技は変幻自在。この20年を「諦めずに、隙間隙間で頑張ってきて良かった」と振り返る。ひた向きに張った根を土台に、大きな花を咲かせている。【望月千草】
★普遍的なメッセージ
取材の冒頭、紙面1ページまるごと使ったインタビューだと伝えると、倉科は「うれしいです!」と記者の目を見てほほ笑んだ。飾らない物腰が、こちらの緊張をほどいてくれた。
「浮浪雲」は、幕末の江戸を舞台に家族模様や街の日常などを描く“時代劇ホームドラマ”。劇中では、風変わりな夫の浮浪雲を支える、しっかり者の妻かめを演じる。メッセージの投げかけ方は、時代劇だからこそ成せるものがあるという。
「現代劇だと携帯とかのアイテムが出てくる中で、時代劇は家族そろって膝を突き合わせて今日あったことを会話できる。コメディーでもあるんですけど、その中にしっかりとした普遍的なメッセージがあったりします。私が好きな回に『お侍さんのプライドとか何よりも、死んじまったらおしまいだよ』っていうせりふがあって。現代でも通じることだけど、あの時代だからこそ命の大切さや尊さみたいなものは、より一層強く伝わるんじゃないかなと思います」
★役と重なる部分多く
時代劇だが、良い意味で格調が高すぎない。まるで近所の家族の日常をのぞき見でもしているかのような空気感。演じるかめは、息子の新之助と同等の目線でけんかしたり、遊び人味のある夫でも深く愛していたりと愛嬌(あいきょう)たっぷり。そして、家族を支える頼もしい横顔もある。倉科自身も実生活では弟妹がいる長女。重なる部分も多かった。
「私はまだ結婚していないし子どもも持っていないんですけど、かめさんは家族を支えていて、私自身も家長っていうポジションだったのですごく共通するなと思いました。負けん気じゃないけど、気の強さもあるようなところは似ているなと思います」
★熊本育ちで肝据わる
自身を「気が強い」という。記者個人としてはそのイメージはあまりなかったが、本人は「気、強いですよ」と屈託なく笑う。肝の据わりっぷりは地元の熊本で培った。
「何に対してもあまり臆することがないのは、気質的に強いからなんじゃないかなと思っています。九州は男性を立てるところはあるんですけど、裏で手綱を握っているのは奥さんや女性だったりすることが多いので、今回と似ているとは思います。家長の雲さんはあんな遊び人だけど、旦那さんだから尊敬はしていて。でも、手綱握っているのは、かめさんで分かるなぁと」
★09年朝ドラヒロイン
文字通りの気の強さというよりも、気持ちの強さを倉科の人柄から感じた。今年でデビュー20年。自身の役者としての経歴を「特殊かもしれない」と語る。キャリアを重ね、オファーをもらう役柄の変化について聞くと、予想とは反対の答えが返ってきた。「どっちかというと20代前半から母親役が多かったんです。その頃からこの幅のところでやっていたので、変化はあんまり感じてないんです」。21歳だった09年、NHK連続テレビ小説「ウェルかめ」のヒロインを演じた。朝ドラの主人公といえば、その後はいわゆる“王道”な役に就くイメージがあるが、倉科がフジテレビ系「名前をなくした女神」(11年)で演じたのは、正統派とは対極な「悪女」の母親役だった。
★かわいらしさも同居
20代前半から年相応な学生役やOL役はあまり通らず、「どっちかというと教師役とか位が高かったりしました」と当時を笑って懐かしむ。まさかの“逆”を行く展開だったが「自分がやったことがない役をいただくのは本当にうれしくて。そこに可能性を見いだしてくださるからこそ、オファーしていただけるので『頑張ります!』って期待に応えたくなりますね」。
前向きに道を切り開き続けたが、葛藤もあった。若くして得意ジャンルの役柄が生まれたことは、コンプレックスと強みの「半々でした」と回想する。王道ど真ん中を走る同世代の女優と比べて卑屈になったこともあった。だが、さすがの“気の強さ”だ。
「私は脇で頑張ってきたので、ど真ん中ヒロインに憧れたりもしたし、コンプレックスは感じていたりはしたけど『置かれた場所で咲け!』って感じでした。『名前をなくした女神』ぐらいの時点でそう思えましたね。『いただいている役で認められたらいいな』って思いながら、頑張ってきたところはあります」。芝居が好き。その思いを源に、深く地道に根を張った。
今や舞台やドラマ、映画と出演作は絶えない。そんな役者としての自身を「無個性」と表現する。
「私の世代は本当に女優さんが多いので、役をいただくのも取るのもすごく大変でした。『どんな役でも応えます』っていう気持ちで20代、30代をやってきたからこそ、どんな役でも応えられる自信が比較的あるというか。それは無個性だからこその持っている強みみたいなものかもしれないし、(同世代に)ライバルが多かったからこそ、いろんなことにチャレンジしてきたから出せる引き出しが結構多いような気もします」。唇をかんだ日も、前へ前へと歩み続けたあの頃の自分に胸を張った。
家族を描いた作品だけに、将来的な家庭願望を聞いてみた。「(家庭は)できたら良いな」とし、理想のパートナー像には「どんな人が良いかな~」と思い巡らせながら「やっぱり大切にしてくれる人が良いですよね、安心できる人」と挙げた。引く手あまたにも思えるが…「全然です! 本当に!」とすぐに照れ笑い。生きざまは強くてかっこいい。そこにかわいらしさも同居する。多くの人を魅了する理由が詰まっていた。
◆「浮浪雲」
ジョージ秋山氏の同名漫画が原作。幕末の品川宿を舞台に風変わりな男、浮浪雲(佐々木蔵之介)が日々を気ままに生きながらも、人々の運命を優しく動かしていく人情劇。イッセー尾形、六平直政、中越典子らも出演。
▼「浮浪雲」佐野元彦チーフプロデューサー
以前、「大河ドラマが生まれた日」というドラマでご一緒させていただいた際、倉科さんのコミカルな芝居のすばらしさに、あぜんとしました。あのリズム感はまねしてできるものではありません。今回の「浮浪雲」は、時代劇ホームドラマとして、家族のセリフのやりとりの間合いが勝負どころでしたので、倉科さん以外の方にお願いすることは考えもしませんでした。ご一緒できて幸せでした。
◆倉科カナ(くらしな・かな)1987年(昭62)12月23日、熊本県生まれ。06年「ミスマガジン2006」でグランプリ受賞。09年NHK連続テレビ小説「ウェルかめ」でヒロインを務める。第29回読売演劇大賞女優賞。稲垣吾郎主演の舞台「PARCO PRODUCE 2026『プレゼント・ラフター』」(2月7日から)への出演が控える。日本テレビ系「ぐるぐるナインティナイン」の人気企画「ゴチになります!27」新レギュラー。血液型O。







