元宝塚歌劇団星組トップスターの柚希礼音が、20日に著書「柚希横丁」(ブラウンズブックス)を発売する。お酒と食事を楽しめる店を巡る、雑誌「BARFOUT!」で17年から続いた連載をまとめたもの。その時々に取り組んでいた役柄の雰囲気が投影され、宝塚退団後の歩みを振り返るような1冊になった。宴席で救われた経験や、転機になった作品について聞いた。【鎌田良美】
★19日から掲載写真展示
飲めないお酒とかないんですか? と聞くと「ないです!」と即答した。シャンパンやワインが似合う元宝塚トップスターが横丁に繰り出したら、と始まった連載が書籍化される。
「公演の宣伝じゃないから思ってることを自由に話せる。おいしいものを食べて飲んで、いろんな話をする場が楽しくて。もう1回巡り直したいくらい、好きなお店が多かったです」
19日から27日まで都内の代官山・蔦屋書店SHARE LOUNGEで、掲載写真の展示も行われる。7~8年にわたる連載期間中、数々の舞台や映像作品に出演した。合間を縫って毎回3時間ほどがっつり飲み、食べ、語らった。
★同期の言葉で道開く
宝塚時代は飲み歩きこそ多くできなかったが「同じ釜の飯を食う、ちょっと体育会系の場だったので」とホームパーティーや宴席は多かった。時には二日酔いどころか三日酔いし、赤ワイン売り場に1年間、近寄れなくなった。おでん店の日本酒でつぶれた20歳の夜。楽しみにしていた翌日のディズニーランドは行けずに終わった。失敗もしたが“飲みニケーション”を大切にしてきた。
「下級生の時から私、明るいキャラだったんですよ。だからクールな、屈折したかっこいい男性の役が来た時、それを思いっきり稽古場でやるのが恥ずかしかったんです」と振り返る。
殻を破るきっかけは同期の言葉。「そのキャラはみんなに好かれているし、いいんだけど、そうじゃないちえ(柚希)もいっぱいいる。それを勇気を持って出した方がいいよって」。相手を傷つけるかもしれないと稽古場ではためらうような真剣な話を、食事と酒を交えて伝えてくれた。
それを機に思いっきり、かっこつけてみた。「意外と誰も笑わないし、どうした、とか言わないもんなんだな。自分だけが気にしてたんだなと。それが取っ払えたら、急に道が開けて」。一皮むけた瞬間だった。りりしい役と向き合っていた時は男性的なポーズ、女性らしい役を演じていた時はワンピースに柔らかい表情と、書籍内でもその時期の「作品っぽい顔」が垣間見える。
「私にとって乾杯は『ご褒美』です。やっぱり何かが一区切りした時が多いから、気持ちが解放される。千秋楽の乾杯ほど最高なものはないです!」
★退団10年後の出会い
宝塚を退団して10年の節目だった昨年、大きな出会いがあった。6月に中井貴一(64)主演の舞台「先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~」に出演。原節子をモデルにした女優・谷葉子役を務めた。
「なんだか往復ビンタを食らったような。ああ頑張ろうと思える経験でした」
これまで場数を踏んできたミュージカルは、歌やダンスの練習にも多く時間を割いた。対して芝居だけを、ひたすら全員で突き詰める。「よくするために話し合いを重ねて、またやってみる。稽古場ってこうだよなってものを体験しました。2週間くらいで普通なら『できている』っていうレベルに皆さん、いらっしゃる。そこから細かく細かく、どれだけ稽古するの? っていう毎日でした」。
中でも座長・中井の求心力と気配りに感銘を受けた。「『柚希礼音、こんな芝居するんだってびっくりされるようにおれは導いていきたい』と言って、本当にそう導いてくださった」と尊敬と感謝が止まらない。他作品でもふと迷った時、「中井さんやキムラ緑子さんだったらどうやるんだろうって、今もお芝居をつくりながら考える」と立ち返る指針になった。
10年で意識にも変化が起きた。劇団には卒業がある。ゴールテープが見えているから全力疾走できた。
「退団してからモチベーションの保ち方が分からなくなりました。本当に突っ走った感じだったんですけど、やっぱりゴールがないからちょっと疲れる。去年5作やって結構疲労して、今年の頭1カ月は絶対に休ませてくださいって前から言ってて。丸々休んだらようやく、お米を炊いて、みそ汁をつくる生活は何と幸せなんだ! ってところに戻ってこられました」
ずっと一生懸命だった。が、走るだけでは息切れする。自分をいたわることでより頑張れると痛感した。
男らしさ、女らしさが叫ばれなくなった時代に、同性をもとりこにする格好良さと美しさを体現してきた。「子どもの時は関西人だから『おもしろい』が一番の褒め言葉でしたけど、今は『かっこいい』がうれしいですね」。真っすぐな生きざまがピンとした背筋に表れる。“外の世界”は公演ごとに座組が変わる。最初は慣れなかった。
「今は仲間がどんどん増えていく感じがして幸せ。『マタ・ハリ』がすごく大好きな役だったので、魂が震えるような役にまた出会いたいですね。自分が震えるような役と出会った時、生きててよかったなと思います」。ゴールはない。だから新しい経験や出会い、喜びもまた、果てがない。
▼25年の舞台「先生の背中」で主演した中井貴一
宝塚らしくない。と言ったら語弊があるかもしれないですけど、とっても普通でいらっしゃる、というのが第一印象でした。稽古していく中で魅力だなと思ったのは、常に自分に対して疑念を持っているというのかな。置かれた立場や芝居に決して甘んじない。自分がそれにふさわしいのかという葛藤も常に持っているのが素晴らしいなと思いました。僕らの仕事って、自分の地位に埋没していくのも仕事かもしれないですけど、常にどこか否定的である魅力。彼女はそれを持っている感じがしますね。
宝塚のお芝居の形態とストレートプレーはやっぱり違いがある。容姿、形で見せるものから、マインドで見せるものへ転換していきたいって気持ちが強くあったように思います。「私、心動いてますか?」って常に気にしていらっしゃった気がしますね。とっても真面目なんだけど、関西人のユーモアを常に忘れない。バイタリティーにあふれているので、休みに対しても真面目。時間を区切って「この公演が終わったら、ここ行って休養してきます!」って聞いて、なんだよそれ、すげえなって言った覚えがあります。
◆柚希礼音(ゆずき・れおん)
6月11日、大阪府生まれ。99年に宝塚歌劇団に入団。09年から6年にわたり星組トップを務め、第30回松尾芸能賞新人賞、第65回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞、第37回菊田一夫演劇賞を受賞。14年に日本武道館で単独コンサート。15年に宝塚退団。16年からソロコンサート「REON JACK」を定期的に開催。近年の主な出演舞台は22年「ボディガード」、24年「カム フロム アウェイ」、25年「先生の背中」「マタ・ハリ」「マイ フレンド ジキル」など。172センチ。血液型B。







