月組人気スター鳳月杏の主演作「デジタル・マジカル・ミュージカル 出島小宇宙戦争」が、大阪市のシアター・ドラマシティで上演中だ。花組での4年半を経て、昨春に月組へ復帰。月組時代の先輩、明日海りお(昨年11月退団)が率いた花組でスター性を磨かれたといい「私には組替えが必要だった」。輝きを増し、東上初主演作に臨んでいる。大阪公演は16日まで。東京建物Brillia HALLは、24日~3月1日。

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「チャレンジ」をテーマに掲げた今年、東上作初主演を得てスタートを切る。「ファンの方が喜んでくれたのが、何よりうれしかった」。江戸時代の設定ながら、長崎が近未来都市へと変貌するファンタジーだ。

「江戸時代(との設定)は、忘れてください(笑い)。『不思議の国のアリス』ではないけど、迷い込んだような…。アドベンチャー風のワクワク感が」

主人公は天文学を本業とするが、自身は「調べてみたんですけど、頭がついていかない(笑い)」。ただ、普段は役に影響されないが「月の満ち欠けのカレンダーを見たり、コスモ系の柄に興味を持った」そう。

「14年目。チャレンジに意味があるんじゃないか」と考える。実力派ゆえ個性的な役や老け役と、幅広い役をこなしてきた。

「今までいろんな役をさせてもらい、(逆に)主役ってシンプルで難しい。見ている方が、物足りなく感じちゃうかも? って(笑い)。主役以外の方は役割もあり、しっかり組み立てるようにしてきたけど、(主役は)逆に自由でいい」

06年に入団し月組に配属。14年末に花組へ移り、昨年4月、古巣へ戻った。

「私には、組替えの経験が必要だった。花組での時間が濃かったし、自分にないものを吸収できた。月組にずっといたら、変われなかった。組替えがなくても変われる人はいるけれど、私には、すごくよかった」

花組へ移ったとき、月組時代に背を追った明日海りおがトップに就いていた。「(明日海は)月組で学んだこと、芝居にもこだわり、信念を曲げず、いい意味で貫いていらした。私も、芝居への気持ちはこのままでいいんだって」。花組は劇団最古の組。より「男役らしさ」「娘役らしさ」を求められる傾向が強い。

「スターを育てる、スター性を磨かせてくれる組。ショーでも男役、娘役それぞれのこだわり、宝塚が大事にしなきゃいけないことを率先してやっている組。だから『花男』みたいな言葉ができた。私も、その中で『男役力』を上げてもらったと感じます」

月組へ戻った今、鳳月は原点への思いを強める。

「昔、あこがれた上級生はみな『カッコいいな』とあらためて。結局『カッコよくないと意味がない』って、落ち着いた(笑い)」

多彩な役から経験値を積んできたからこその自信。

「何もしてなくても『カッコいい』のもあり。でも、受け身じゃなく、きちんと提示し、発信していくカッコよさもある。ウインクをするとか、カッコつけることだけじゃなくて」

古巣の後輩へも還元するつもり。「月組って繊細。人の変化に敏感だったり、人を見る力がある組。私も昔、上級生のひとつひとつをこっそり見ていた」。

トップ珠城りょうには「彼女は月組しか知らない。でも、そうであるべき人だったと私は思う。私が外から違う感覚を持ってきて共有し、おもしろいと思ってもらえたら」。チャレンジの年。月組へ新しい風を吹き込む。【村上久美子】

◆デジタル・マジカル・ミュージカル「出島小宇宙戦争」(作・演出=谷貴矢) 舞台は江戸時代。長崎の出島に「外国人に紛れ宇宙人が忍び込んでいる」とのうわさが、江戸の街に広まった。幕府は、宇宙に詳しい天文方、カゲヤス(鳳月杏)に潜入調査を命じる。樺太を探検した経験のある御庭番、リンゾウ(暁千星)とともに、九州に乗りこむと、長崎全体が奇妙な幻想未来都市へと変貌を遂げていた。カゲヤスは出島で出会った女、タキ(海乃美月)の協力を得て調査を進め、近代技術をもたらした謎の西洋人、シーボルト(風間柚乃)の正体を探る。

☆鳳月杏(ほうづき・あん)6月20日、千葉県船橋市生まれ。06年入団。月組配属。13年「ベルサイユのばら-オスカルとアンドレ編-」新人公演で、アンドレ役で初主演。14年末に花組。18年博多座「あかねさす紫の花」では、明日海りお、柚香光らと主要キャスト役代わり。昨年4月に月組復帰。身長172センチ。愛称「ちなつ」「てね」。