花組一筋の人気スター瀬戸かずやが、退団公演「アウグストゥス-尊厳ある者-」「Cool Beast!!」に臨んでいる。芝居では野心家の執政官アントニウスにふんし、専科スター凪七瑠海ふんするクレオパトラ7世に迫る。「男役冥利(みょうり)に尽きる役」ととらえ、研18(入団18年目)のプライドにかけて「恥じない存在でいたい」と集大成を見せる。兵庫・宝塚大劇場で5月10日まで、東京宝塚劇場は5月28日~7月4日。
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「花組の彼氏」「アニキ」…。花組一筋18年。劇団で最初に生まれた花組で「花男」の核を担う。
「すべてが『これが最後か』という思いですが、あまり持ちすぎても変な感じに(笑い)。いつも通りでいつつ、しっかりと1つ1つを心に刻んでいます」
一昨年末就任の柚香光が、瀬戸にとって5人目のトップ。本拠お披露目だった前作は4カ月遅れで開幕も、組の充実を実感した。
「柚香光というトップスターを見ることができ、ほんとによかった。(退団は)もうこのタイミングかな-と。(花組は)絶対大丈夫だって思えた。柚香がメキメキと成長し、組子も、遠慮せずにキラキラとエネルギーを放っていた」
芝居は、ローマ史上初の皇帝オクタヴィウスの半生を描く。瀬戸は、カエサルの腹心で野心家の執政官、アントニウス役だ。
「野心も力も『ローマを守るために必要』という人。繊細でさまざまな学問を学んだオクタヴィウスとは対照的で、対峙(たいじ)せざるを得ない。柚香の鋭い目から放たれるパワーはすごいんですよ(笑い)」
同時に凪七演じるクレオパトラにひかれ「野心、欲望の中で愛を知る。男役冥利に尽きる役」と言う。衣装も重厚だ。
「求められていることが濃いなと思います。欲望、野心を自分の心から奮い立たせ、手がブルブル震え、目が血走って…までいく自分をどう作ろうかと」
瀬戸自身、最も野心に燃えたのは、宝塚音楽学校受験の時だった。幼少時からレッスンに明け暮れる受験生が多い中、比較的“目覚め”は遅く、高校時代にアルバイト経験もある。
「受験の頃、なんで、あんな強気でいられたんだろう? 『宝塚を思う気持ちは私が一番』って。その後、現実を目の当たりにし、考え過ぎて踏み出せなかった弱い自分がいた。あの気持ちを今ください! って、よく自分に言います」
自分の弱さと向き合い、あこがれの花組で、上級生から「花男」を学んだ。
「『花組の男役らしさ』。今私が思うのは、それはひとつじゃない。個々が、どんな男役を目指していくかが、より濃く出る。プライドみたいなものかなと」
下級生時代から「背中で語れる男役」を目指し、貫いてきた。「立ち方、後ろ姿の見せ方、ある時からは色気も」。結果として、ファンも仲間も「花男」の1つの典型を瀬戸に重ねた。
「皆様がそう思ってくださることがすごくうれしい。(退団発表時に)記事がすごく出て驚きました。ありがとうございます-そんなに書いていただいて、と(笑い)。皆様の中に、瀬戸かずやというものを認識していただき、『花組の男役』というものを持ってもらえた。それに恥じない姿で、私は存在しなければ」
ショーでも挑戦は続く。柚香らは野獣にふんするが、瀬戸は人間役。柚香との濃厚な場面もある。
「男役として学ばせていただいた思い、感謝を。瀬戸かずやとして、こだわりを持って存在していたい」
退団後には「今は考えていないですが、この年にして、何もなく飛び出すっていうのも、なかなか不安なところはある」と笑う。
「宝塚しか知らなかった私が卒業して、新しい世界で何と出合えるのか。どんな可能性が? ワクワクしている部分もあります」
ただ、女優転身は「正直思っていない。男役になりたかったので」とも。まずは今作完走が第一目標だ。
「今以上に、皆様に恋してもらえる存在に。一緒に歩いてきたファンの方に、直接伝えられないことが歯がゆい。でも私は元気で、幸せに前を向いて歩いています。一緒に笑顔で、最後まで走ってもらえたら」
最後まで「瀬戸かずや」の使命をまっとうする。【村上久美子】
<愛犬散歩で心に栄養>
退団を決意した後、昨年のコロナ禍自粛に入った。「自分の思いの整理をしました」。当たり前のありがたみに感謝。愛犬(トイプードル=4歳)との散歩も心に栄養を与えた。後輩には「自分の思い、こうしたいこと、強く願っていい。モチベーションがあるからこそ前進できて、あなたの目が輝く」と鼓舞して回る。また、退団後の結婚には「あははは! 願望はあっても、1人じゃできない。まだまだ考える余裕はない」と笑い飛ばした。
<トップ柚香と火花散らす>
花組公演「アウグストゥス-尊厳ある者-」「Cool Beast!!」が2日、兵庫・宝塚大劇場で開幕した。トップ柚香光にとって本拠2作目。これが瀬戸と、トップ娘役の華優希の退団公演になる。
柚香率いる花組では、初のオリジナル2本立て。芝居は、ローマ史上初の皇帝となり、「アウグストゥス(尊厳者)」の称号を贈られたオクタヴィウスに柚香がふんし、瀬戸は、カエサルの腹心で、野心家のアントニウス役。最後に柚香と瀬戸が、火花を散らす。
瀬戸は、下級生時代の柚香が宝塚バウホールで主演した作品で、父親役を演じた経験がある。
「(当時の柚香は)まだ下級生でも、繊細さとパワフルさを放っていて、親子でぶつかり合うシーンが忘れられない。時を経てトップになった柚香光とまた、対峙したときに、安心して物を言い合えて、うれしかった」
若手時代の柚香への思い出にも言い及んだ。
「のびのびとしていて、すごく元気があり余っていて(笑い)。振りの稽古を終えても、まだジャンプして。元気なその姿に励まされ、パワーをもらった」
瀬戸は、柚香との“対決”も含めて、最後の“闘い”に臨んでいる。
☆瀬戸かずや(せと・かずや)12月17日、東京生まれ。04年入団。花組配属。10年新人公演初主演。16年「アイラブアインシュタイン」で、宝塚バウホール初主演。18年「ポーの一族」でポーツネル男爵を好演。同年「蘭陵王」では、女性の心を持つ権力者を演じて新境地を開いた。昨年初めには「マスカレード・ホテル」で東京、大阪公演にも主演。身長172センチ。愛称「あきら」。