花組トップ柚香光が、4日に兵庫・宝塚大劇場で開幕した「巡礼の年~リスト・フェレンツ、魂の彷徨~」「Fashionable Empire」で、人生初というピアノの弾き語りに臨んでいる。芝居で演じるのは、ピアノの魔術師と呼ばれたピアニストで作曲家のリスト。前主演作「TOP HAT」を経て、劇団きってのダンサーは芝居に、歌にも表現力を増し、進化を続ける。宝塚は7月11日まで、東京宝塚劇場は同30日~9月4日。

表現力に磨きがかかり、なお進化するトップ柚香光
表現力に磨きがかかり、なお進化するトップ柚香光

「芸術家というお役をいただくのが、まず、とてもうれしく、引き締まる思いです」。トップ本拠地4作目で、充実期を感じさせる穏やかな笑みで言う。

芝居で臨むリストは、超絶技巧を駆使し、情熱的な演奏で女性を魅了するピアニストで作曲家。演奏を聴き失神した女性もいたという“伝説”も残る。

「彼の音楽に対するフィーリングが理解できたらそのように体が動く。音に向かっているのか、お客さまなのか。それによって体の向き、角度も変わってくるんじゃないかと」

魂で役柄を理解しようと努める。同じ表現者として、役柄への共感も強い。

「いやあ、もう! 共感、ありありありありで! おこがましい面もありますが、この作品を一緒に作ってくださるスタッフの皆さまも芸術家なので、その方々の思いも強く感じます。先生方の才能も、お届けできるようにしなければ」

作中、ピアノで弾き語る場面があり「冒頭と途中にも。人生で初めて。うれしいです」と笑う。歌劇の名鑑「おとめ」には、特技に「ピアノ」と記したが…。

「実は、多少で…(笑い)。クラシック練習曲、中学校の合奏曲を弾く程度。それが今回、ジャズっぽい感じのもあって。楽曲が大人で、色気もあるので、すごくうれしいですね」

小学校入学前からピアノは習っていたが、入団後はピアノへ向かう機会が激減。今回、自主練習も「少々」と照れたが、あらためてピアノと向き合い、音への感覚も「以前と違っていて、うれしい発見でした」。

リストの楽曲もあらためて聴き、再発見があった。

「音のひとつひとつが言葉になって聞こえて。若い頃に作った音楽は隙間なく、音の数が多い。間や無を恐れているかのよう。でも、晩年の楽曲は余韻や余白があり、想像を与える音の重ね方。どちらもすてき」

表現者、アーティストとして、リストの葛藤や苦悩も感じ取った。自身は-。

「私は普段と『柚香さん』とは、そこまで差がないと思いますが、(舞台で役になりきり)男役が入っている時と、入っていない時は、けっこう違う。リストがお客さまの反応を見てパフォーマンスを加え、提示していく感じと、共通する部分はあります」

男役芸を磨きトップに就いた今、舞台で感じていることに置き換えると…。

「私も、お客さまの頬が上気したり、目が輝いたりすると、すごくうれしい。そんなに喜んでくださるなら、じゃあこれは? って、重ねていきたくなる」

一方で、リストを思い「でも彼はそれによって、自分という本質から離れ、やりたいことと求められることが離れて、孤独を感じていたのでは」と分析する。

芝居ではリストにふんする柚香光(左)と、運命の恋人役の星風まどか(C)宝塚歌劇団
芝居ではリストにふんする柚香光(左)と、運命の恋人役の星風まどか(C)宝塚歌劇団

自身は「孤独を感じていません」と笑い、本名から「柚香光」を俯瞰(ふかん)的に見た思いも口に。

「ほんっと、この人、仕事好きなんだなって(笑い)。本名の私は、家が好きで、のんびり、ひなたぼっことかをするのが好きなんですけど、柚香さんは季節の移り変わりを感じづらい中で、朝から晩まで同じ空間で稽古している。本名の自分は、風を感じることが好き、日の光、子供の笑い声がするような公園が好き。それとは全然違う『柚香光』がいる。おもしろい。どちらの自分も本当です」

両者ともの共通点は「人が笑っている姿を見るのが好き」。今作、ショーでは下級生の場面も多く「生き生きと踊っている場面を見ると、泣けてきちゃう」とも。仲間への愛も深い。

ショーは「しゃれ者が集う帝国」が舞台。「ファッショナブルって言っちゃっていますから(笑い)。でも、フィナーレナンバーの黒いスーツは、やっぱりうれしい」。衣装も注目だ。

前主演作「TOP HAT」では、あこがれのフレッド・アステアが演じた花形ダンサーにふんし、タップダンスも披露。当代きってのダンサーとしての技量を存分に発揮した。

「ダンス、踊りへのこだわりも増えましたが、(同作を経験し)一番思うのは歌と踊り、芝居の垣根が変わった。以前は別物に感じていたんですが、芝居も踊りも歌も、1本のレールのように。シフトチェンジする感覚がなくなっている印象が強い気がします」

トップになっても続く進化。「その姿をお見せできるように」と胸に刻み、舞台に立つ。【村上久美子】

◆ミュージカル「巡礼の年~リスト・フェレンツ、魂の彷徨~」(作・演出=生田大和) ピアノの魔術師と称され、19世紀初頭のヨーロッパで絶大な人気を博したピアニスト、フランツ・リスト。情熱的な演奏、その美貌でも女性たちを魅了していく。運命の恋人、マリー・ダグー伯爵夫人(星風まどか)とのロマンスを中心に、ライバルのショパン(水美舞斗)との友情も交えて描く。

◆ショー グルーヴ「Fashionable Empire」(作・演出=稲葉太地) しゃれ者が集う帝国を舞台にしたスタイリッシュなショー。トップ柚香の「都会的で洗練された魅力」にも焦点。

☆柚香光(ゆずか・れい)3月5日、東京都生まれ。09年入団。花組配属。14年新人公演初主演。同6月宝塚バウホール初主演。15年台湾公演でオスカル。17年「はいからさんが通る」で外部初主演。19年東京で「花より男子」主演。同11月に花組トップ。昨夏、2人目相手娘役に星風まどかを迎え、今年3月「TOP HAT」主演。身長171センチ。愛称「れい」。