今年一番の邦画豊作週間ではないかと思っている。前作がヒットした「孤狼の血 LEVEL2」に、カンヌ帰りの「ドライブ・マイ・カー」、安定感のある沖田監督の「子供はわかってくれない」、さらには入江監督のインディペンデントでの意欲作「シュシュシュの娘」。どこを切り取ってもさまざまな映画ファンを満足させてくれるラインアップではなかろうか。

特に注目しているのが「孤狼の血 LEVEL2」。今年は「ヤクザと家族」「すばらしき世界」が公開、これまでとは違ったヤクザ像が描かれた。いずれも暴対法によって生きづらくなったヤクザが主人公である。そこには定番である組同士の抗争や、親分のために死んでいく若者たちの姿がメインには描かれていない。そこにきて「孤狼の血 LEVEL2」、設定は30年ほど前の広島になるが、戦い抜く男たちの映画だと期待している。

ヤクザ映画。なぜかこの季節になると「仁義なき戦い」シリーズをついつい見てしまう。ちなみに正月には「ゴッドファーザー」シリーズを鑑賞する。まとまった休みがあるのと、夏バテした体に栄養補給のごとく、熱い男たちを見るのが習慣になっているのかもしれない。

そんな中、千葉真一さんがお亡くなりになった。千葉さんといえば、最も印象に残る役が「仁義なき戦い 広島死闘篇」の大友勝利を挙げる人が多いのではなかろうか。たまたまではあるが、シリーズ4作目となる頂上編を見終わった後での訃報。5作目となる完結編では大友役は宍戸錠が演じていたことから、何か運命的なものを感じた。

当時の千葉さんといえば、主演ドラマ「キイハンター」がヒットし、アイドル的な人気者だった最中の「仁義なき戦い」への出演。当初、北大路欣也演じる山中役に決まっていたそうだが、クランクイン直前に北大路の直談判により役が交代。けんかっ早いが一本筋の通っている山中と、ここには到底書けないどぎついセリフを連発して、いつも股間に手をやり、木刀を持って一心不乱に暴れまくる狂犬やくざ・大友役。同じヤクザの役でも天と地ほどの差があると言える。

しかし、結果この難役を見事に演じ切り、シリーズ1、2位を争う人気キャラになる。いや、もうほんと最高なんです。ちなみに昨今のヤクザものは、もちろんヤンキーものも、あまり風当たりが良くないと聞く。その描き方によっては見た人が憧れを持ち、悪影響を及ぼすといったものである。そういう人にはぜひこの作品を一度見て欲しい。千葉さん演じる大友には一生関わり合いたくないと思うはず。

さて本題。今回紹介するのは眞栄田郷敦。父親は、ご存じのとおり千葉真一さん、兄は活躍の場をハリウッドに移した新田真剣佑である。最初に観たのはドラマ「ノーサイド・ゲーム」(TBS系)、低迷中のラグビーチーム「アストロズ」の期待の新人、七尾圭太を好演。同じく日曜劇場で無名ながらもブレイクした工藤阿須加(「ルーズヴェルト・ゲーム」)を思い出す。ドラマ自体、プロも含めてラグビー経験者が多数出ていたが、その中でも見劣りせず、これがアクションスター遺伝子だと感心した。しかも、これがドラマ初出演だったという。それは松田翔太が初めてドラマに出た時(「ヤンキー母校に帰る・旅立ちの時 不良少年の夢」)に似ている。2人ともデビュー作にして圧倒的なスターオーラをまとっていたのである。その後は時代の流れなのか、キラキラした役も多数こなすようになっているが、今年の正月ドラマ「教場2」では、これまでのさわやかな役とは違ってサイコパス男を熱演。ネットでもその演技が注目された。

このままでも十分にスターになる要素はあるが、父親が大友を演じたように、いつかどぎつい役をやってほしい。2度目になるが、彼の口からここには到底書けないどぎついセリフを聞かせてほしい。今後注目の俳優さんです。

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画『リュウセイ』の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営。今夏には最新作「元メンに呼び出されたら、そこは異次元空間だった」が公開。

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)