【今週の言葉】「宮藤脚本の世界というのは1回見てすべてが分かるというのではなく、何回か元に戻ってもう1回、NOD(NHKオンデマンド=動画配信サービス)か何かで見てもらうという楽しみ方になるだろうと思うので、1回1回のリアルタイム(視聴率)はそんなに気にしていない」

視聴率で苦戦のスタートとなっている大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(日曜午後8時)について、木田幸紀放送総局長が23日の定例会見で語った言葉です。

テレビコンテンツは、見たその場で楽しむのが基本。復習の提案は筋違いではないかという疑問はさておき、回が進むごとに伏線が手をつなげて面白くなる宮藤官九郎ワールドと、「時代、場所、人物が行き来して分かりにくい」という視聴者意見との板挟みにある胸の内が伝わってきました。

実際、ここまでの数字は心細いです。大河歴代ワースト3位の初回視聴率15・5%でスタートし、2話は12・0%、3話は13・2%。放送サイドと、心細い数字が続いています。放送前に制作サイドも「分かりにくいかもしれない」(訓覇圭チーフ・プロデューサー)と口にしていましたが、その自覚が数字に表れた印象です。

おさらいすると、1話は明治後期から昭和39年の東京五輪までの50年間を一気に見せるプロローグ。時代と場所、オールスターキャストが怒濤のように切り替わる大変な情報量で、「ぼんやりしていると分からなくなっちゃう」(訓覇氏)という側面がありました。さらに、作品全体が古今亭志ん生(ビートたけし)の創作落語として語られるという凝った仕掛け。語り手も、たけしさんと、その若いころを演じる森山未来さんを行き来します。

2話から主人公、金栗四三(中村勘九郎)の物語が始まりましたが、やはり明治と昭和、熊本と東京、金栗四三と志ん生がちょいちょい切り替わる多層構造。木田総局長は会見で「今はどうして志ん生さんと金栗四三さんが関係あるのか分からないことが多々あると思いますが、もう少しなじんでいけば、それぞれのシーンを楽しめるようになる」と話しています。

分かりにくい派の言い分は、個人的には分かります。現代と戦国くらい差があれば、髪形、服装、風景、言葉などでどちらの時代か一目で分かるのですが、明治後期と昭和30年代は、男性の丸刈りや七三分け、官僚のエリート然としたスーツ姿など、意外なほど似通っていて、映像で描き分ける難しさも感じます。同じ50年スパンでも、信長→秀吉→家康のような、流れの手掛かりになる有名人もいないのでなおさらです。

もっと言えば、寄席の雰囲気は昭和30年代も今もほぼ同じ。高座のビートたけしさんがうっかり2019年のビートたけしさんに見えてしまったりもします。当時のニュース映像が挿入されると、フィクションの上にノンフィクションの人物登場で、写真と映像がふんだんにある大河ドラマのデコラティブ感もあります。「『すごく面白い』という意見と、『分かりにくいという』という意見が交錯している」(木田総局長)という現状も納得です。

とはいえ、日本オリンピック史を築いたアツい人たちのアツいお話、というシンプルなテーマ。教科書ではないので、スポーツ大好き人間たちの奮闘を大枠でざっくり楽しむくらいの方が、この作品の大らかさには合うと感じます。

それに、反響や視聴率がどうだろうと、宮藤氏は昨年末の時点で3分の2以上書いてしまっているので、今さら変わりません。「知らない世界と、こんな人がいたという発見はドラマを見る大きな楽しみ」という総局長の言葉に共感し、近現代の歴史ロマンを楽しみたいと思います。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)