バラバラなタイミングでスタートしている夏ドラマ界。イチオシのテレビ東京ドラマプレミア23「シェフは名探偵」(月曜午後11時06分)も19日を含めてあと3話です。一皿の料理が解き明かすちょっとしたミステリーと、三舟シェフ(西島秀俊)ら店の4人の魅力が抜群で、すてきな読後感が月曜の夜にぴったり。さりげない味わいの背景には、コロナによる企画変更という逆転の発想があったそうです。

テレビ東京「シェフは名探偵」(C)「シェフは名探偵」製作委員会
テレビ東京「シェフは名探偵」(C)「シェフは名探偵」製作委員会

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近藤史恵の「ビストロ・パ・マル」シリーズを映像化。注文や会話、雰囲気のちょっとした違和感からお客さまの抱えている問題に気付く三舟シェフが、「ちょっといいですか」とさりげないおせっかいを焼き、思ってもみなかった真実に導く“日常のミステリー”ものです。

ブイヤベースばかり注文する女性客、逆さまのタルトタタン、素数のチョコ、骨付きの肉にこだわる少年など、三舟シェフの料理と専門知識が謎解きとしっかりリンクしていて、なるほど感が心地いいんですよね。フランス人の恋人が作ってくれた最低のカスレ(煮込み料理)は実は愛情の裏返しだったとか、ボタンの掛け違いや積年の後悔が一気に逆転する感じもドラマチックです。

舞台はビストロ「パ・マル」のワンシチュエーションのみ。レストランは、さまざまな人がやってくる人間交差点なのだと見た目に実感でき、同時進行するいくつかのお客さまの謎にカラフルな人間味があるのです。

テレビ東京「シェフは名探偵」(C)「シェフは名探偵」製作委員会
テレビ東京「シェフは名探偵」(C)「シェフは名探偵」製作委員会

阿部真士プロデューサーによれば、企画した5年前の時点では、ワンシチュエーションではなかったそうです。「グルメミステリーとして、事件ものをやっている金曜8時枠でやったら面白そうだなと。店を乗っ取ろうとする敵対組織がいて、ミシュランの星取りみたいな縦軸をからめて、みたいな事件性高めで考えていました」。

しかし、新型コロナの感染拡大という予想外の事態となり、企画を変更。「いつ現場が止まるか分からない中、撮影できずに放送に穴が開くのはどうしても避けたいと思いました。いろんなところでロケをする作品はやめようと、ワンシチュエーションに変更しました」。コロナが終息したら、こんな店に行ってみたいと思える作品に、というアットホームな狙いが当たった形です。

キャスティングも最高なんですよね。微妙なKY体質でスッとおせっかいしてくる三舟シェフの西島秀俊、新入り目線で物語を引っ張るギャルソン(給仕係)濱田岳、おちゃめでかっこいいスーシェフ(副料理長)神尾佑、しっかり者のソムリエ石井杏奈という4人が最強のチームワークで絵になり、この店がどこかにありそうなリアリティーがあるのです。

客としてやってくる毎回のゲスト陣も魅力的。利重剛、洞口依子の夫婦役をはじめ、シャンソン歌手役のシルビア・グラブ、売れない劇団員役の真飛聖など、キャスティングのセンスがいいんですよね。阿部氏は「いつ何があるか分からないコロナ禍の撮影で、ゲストには完璧にせりふを入れてきてもらいたかったので、舞台出身の人を多めにしています。ものすごい数の劇団の方々がキャスティングされていて、演劇好きな方には話題になっているんですよ」。

テレビ東京「シェフは名探偵」(C)「シェフは名探偵」製作委員会
テレビ東京「シェフは名探偵」(C)「シェフは名探偵」製作委員会

「ドラマプレミア23」の枠ができてまだ2作目ですが、1作目の「珈琲いかがでしょう」(主演中村倫也)は1杯のコーヒーから始まるお客さんの人間模様がキラキラと描かれましたし、「一皿の料理」から始まる今作もしかり。経済と働く人に特化した「ドラマBiz」枠(昨年終了)のような明確なコンセプトはないそうですが、勢いをつけたい月曜深夜にテンポのいい快作が連発されているのは心躍ります。

7話から、三舟シェフの行方不明の父といういよいよの謎もからみ、料理と推理がどんな人間ドラマを描き出すのか楽しみ。「8、9話は僕も泣きました」(阿部氏)というだけに、最後までしっかり見届けたいと思います。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)