長渕剛(58)が、8月22日夜から静岡県富士宮市の富士山麓で開催する「10万人オールナイト・ライヴ2015 in 富士山麓」。この一大イベントに向け、さまざまな角度、証言から連載する。

 長渕剛がほれこみ会場に選んだ静岡・富士宮市のふもとっぱらは、全国でも屈指のオートキャンプ場だ。海抜830メートルから富士山をのぞむ景色もそうだが、東京ドーム6個分の広さは、隣のグループを気にせず、ゆったりテントやタープが設営できる。毎年夏休みは、平日で20~50組、週末は50~250組が訪れ、リピーターも多い。ただし、今年は準備、撤収も含めたライブのため、7月27日から8月31日が貸し切りとなった。

 ふもとっぱら社長の竹川将樹(56)は13年10月に、長渕らスタッフ一行の訪問を受けた。夜を徹した10万人のライブと聞き、驚いたのと同時に「ありがたい。大勢に来てもらい、知ってもらえるチャンスだと思った」という。しかも、規模こそ1000~2000人だったが、10回ほど音楽イベントを開催した経験があった。地元・麓区の区長だったこともあり、さっそく、近くの畜産農家の牛や馬への影響を調査した。住民にはライブ開催の、いい面も悪い面も説明した。「極力地域に迷惑をかけないようにという意味と、費用対効果のある話ですから。トータルでいい面が多いので結論が出ました」。

 これまで8度訪問した長渕は、ステージ上の長渕の右手、観客の左手に富士山が見えるよう希望した。朝日が昇る光景を共有しようという願いだった。しかし、竹川は長渕が富士山を背にする形にしないと、近隣への音の影響が大きくなると判断。90度、ステージの向きを変えることを提案して受け入れられた。

 かき入れ時を投げうってまで、ライブ成功に尽力するのは、12戸が残る麓区を守りたいからだという。竹川は林業とともに、キャンプ場など観光事業を営む。今後、1次産業だけで生き残るのは難しい。不可欠となる観光事業の何よりのPRだと思っている。願いの根源に小学5年生の時に、児童の減少で廃校となり、仲間と離ればなれになった経験がある。2学年下には、92年バルセロナ五輪陸上400メートルファイナリスト高野進(54)がいた。

 竹川 そういう悔しい思いをした。そこそこの人が住まないと、集落の機能が維持できないという危機感とか、1人でも多く住んでもらう仕組みは、ずっと考えているんです。

 長渕の「乾杯」をよくカラオケで歌うが、当日はライブを楽しむより周辺の手伝いに追われそうだ。それでも「日の出は見たいです」という。長渕の背後に昇る朝日には、故郷を守る男の願いがこめられている。(敬称略)【特別取材班】

 ◆竹川氏が会長を務める「朝霧高原景観管理協議会」がライブ当日、ゴミゼロ運動の一環として、ゴミを包むと富士山の形になる袋と、特製缶バッジをセットにした募金活動を行う。同協議会は富士山がきれいに見える運動をしており、普段から道の草刈りやごみ拾いに取り組んでいる。竹川氏は「拾うより、捨てないことが大事。ご協力お願いします」。