長渕剛(58)が、8月22日夜から静岡県富士宮市の富士山麓で開催する「10万人オールナイト・ライヴ2015 in 富士山麓」。この一大イベントに向け、さまざまな角度、証言から連載する。

 6月21日、世界文化遺産の構成資産でもある富士宮市・富士山本宮浅間大社に長渕剛が立った。本殿にコーラスを従え「富士の国」を歌った。オールナイトライブのために作った新曲の奉納が終わると、境内に集まった1000人を前に7曲を歌った。ライブまで残り62日が待ち切れない熱狂の中、奉納ライブの共催者として参加した地元グループがあった。

 ライブのロゴと、裏面に長渕と富士山がレイアウトされた彼らの名刺には「富士宮YEG CREW」とあった。YEGとは商工会議所青年部、CREWは長渕のライブの乗組員を意味する。主催のキョードー東京が、地元で献身的に尽力する彼らに敬意を表し、メンバー81人に用意した。長くビッグイベントを手掛ける同社も、外部組織に名刺を用意したのは初めて。ほぼ同時期、YEGはオールナイトライブの後援に名を連ねた。

 会長の西川有一(47)は一体感を覚え、記念すべき1枚目は長渕に渡した。以来、仕事の時も、この名刺を使っている。

 西川 渡せば「何これ」となって「ライブに来てよ」となる。81人がやればそれなりだし、ましてや、みんなが事業主。そっちも関心を持ってもらえる。地域経済人として、地元の活性化と自己研さんを目的に真剣に関わっているんです。

 奉納演奏前日は、商店街を回ってポスターを貼った。3時間で約300枚。親戚の家の壁には20枚。目抜き通りは長渕で埋まった。

 西川 ポスターを見た長渕さんも「これは、すげえな」と言ったそうです。非売品だからファンの人が持っていって、今ではかなりなくなった。それでも構わない。欲しい人は持っていってという気持ちです。

 地元タクシー協会に約500枚のPRステッカーを渡し、市内を走るほとんどのタクシーに貼った。ライブ関係者を市や県の関係部署に紹介するなど、相談役にもなる。市も協力的だが、行動するまでに時間がかかる。民間組織なら動きやすい。「富士宮やきそば」も民間が全国に打って出て、街の顔になった。その行動力が、前代未聞のライブを支援する。

 地元の経済人には最大関心事の4月の統一地方選挙のころは、掛け持ちで多忙を極めた。今は、ライブ後もしばらく滞在する人のために、市内紹介のオリジナルマップを作成中だ。

 西川 「もう1回、富士宮市に行こう」と思ってほしいからね。

 充実の表情は長渕にも伝わったのだろう。贈られた色紙に「生涯情熱」と書かれていた。(敬称略)【特別取材班】

 ◆富士宮市 静岡県東部に位置する。標高差3741メートルで日本一標高差のある都市。人口13万4866人。市の木はかえで、花はふじざくら、鳥はひばり。市のキャラクターは「フーちゃん」と「さくやちゃん」。13年、富士山が世界文化遺産に登録された。観光では、富士登山道の1つを持ち、グルメでは日本一の生産量のニジマス、富士宮やきそばで知られる。須藤秀忠市長。