復興への歌声を届ける。最大震度7を観測し道内に甚大な被害をもたらした北海道胆振東部地震から1年を迎えた6日、被災地厚真町出身のシンガー・ソングライター小寺聖夏(せいな=23)がシングル「羽」をリリースした。

被害を受けた故郷のためにつくった復興ソング。約半年の制作期間をかけ被災者の思いを詰めこんだ曲は、自身最長9分7秒の大作となった。7日に同町で行われる追悼式で披露する。

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「<歌詞>恐怖と共に開く携帯に通らない電波 何とも言えない異臭と震えた身体に溶け込む砂埃」。震災から1年。小寺は9月6日に合わせて復興ソング「羽」を一般発売した。語りかけるように歌う地震発生直後の生々しい描写から、曲は始まる。

「ただの応援ソングではなくて、1つの物語みたいなものをいつでも思い出せて、いつでも頑張ろうと思える身近なものができればと思いました」。

厚真町は自身を成長させてくれた場所だ。16年のデビュー当日は町が記念ライブを開催してくれた。告知ポスターは町中に貼られ、チケットもデザインから制作してもらった。町を歩けば「頑張れよ」と声をかけてもらえる。人の温かさが自慢だ。

「応援してもらったおかげで自分は頑張れる。歌で伝えることで何かを返したかった。忘れられない出来事を自分のためにもみんなのためにも一生残るものにしたかった」。

制作にあたり被災者から当時の様子などを聞いて回った。目の前の2階建ての家屋が崩れ、変なにおいもする。泣きながら話す人もいた。普段なら楽曲は短ければ1日で完成することもある。だが重圧もあり制作期間は約半年も要した。曲の長さは9分7秒。あふれる思いをより多く残したかった。こぶしの木、鶯(ウグイス)など厚真町ならではのワードも盛り込んだ。

「無駄にできないと思いました。中途半端な思いなら届けることは無理。話してくれた方に後悔させない作品にしたかった」

6月の町内のイベントで曲を初披露した。当時の事を思い出して泣き出す人も多かった。だが曲には「<歌詞>だから僕は強くなった」など、前向きなメッセージも込められている。7日の追悼式でも披露する。

「この曲を歌い続けることで、厚真の存在を消えないものにしたい」。

悲しみ、切なさ、そして希望。五線譜に書き込んだ被災者の思いを、全国に届けていく。【西塚祐司】

◆小寺聖夏(こてら・せいな)1996年(平8)7月26日、厚真町生まれ。3歳から民謡、5歳から三味線とピアノを始める。7歳の時に日本郷土民謡協会全国大会でグランプリを獲得。中学卒業と同時に上京、日本芸術高等学園に入学する。16年9月ファーストアルバム「声が出る限り」でデビュー。現在は東京を拠点に活動している。

◆北海道胆振東部地震 18年9月6日未明に発生。M6・7、最大震度7を記録。厚真町、安平町、むかわ町を中心に大きな被害をもたらした。死者は44人(19年9月5日現在)。苫東厚真火力発電所が完全停止し、道内全域が停電となるブラックアウトも起きた