今年で俳優生活50周年を迎えた草刈正雄(68)が著書「人生に必要な知恵はすべてホンから学んだ」(朝日新聞出版)を出版した。このほど、日刊スポーツの取材に応じ、出演作で出会った名ぜりふとともに役者人生を回想、今後についても語った。

   ◇   ◇   ◇

著書では好きな本を「台本」と語り、せりふへの思いは強い。三谷幸喜脚本の16年NHK大河ドラマ「真田丸」で演じた真田昌幸には「大ばくちの始まりじゃあ!!」「負ける気がせん」など豪快な決めぜりふが多く、特に開戦前に自軍を鼓舞する「おのおの、抜かりなく」は名文句としてお茶の間に浸透している。草刈は「(舞台になった長野県)上田の警察署の署長が毎日の朝礼で言うらしいです」と笑みを浮かべる。イベントなどでせりふを求められる機会も多く「おのおの抜かりなく、って言うと『わ~っ!』って喜んでくれるんですよ」とうれしそうだ。

「自分の代名詞になるようなせりふに恵まれると、役者はうれしい」という。「真田丸」で親子を演じた堺雅人(46)主演のTBS系ドラマ「半沢直樹」についても「『倍返しだ!』とかね。ああいう特別なせりふがポンと出てくる。そういうのを言える役者っていうのは面白い。いい仕事してるなって思いますよね」。

大ベテランだが「せりふだけはきっちり入れないと。それさえ入っていればどうにかなる」と基本に忠実だ。30代に入ると仕事が減るなど不遇の時代も経験したが、振り返れば「台本をうろ覚えで行ったり、少し仕事をなめている時期もありました」と自戒を込めて語る。故森繁久弥さんから受けた「せりふは完璧に入れなさい」というアドバイスに心を入れ替え、「それからだいぶ変わってきましたね。他の俳優さんやスタッフに迷惑を掛けないよう、自分の役割はしっかりしていかないとと思っています」。

母1人子1人で育ち、中学3年間は新聞配達、定時制高校時代はスナックのアルバイトで家計を支えた。役者業が下降気味になっても、辞めなかった理由は「経済的なこと」と明言。「プライドもありましたけど、まず食べていかないといけない。基本的にその辺の気持ちが強いんです、僕」。意外にも「作品がいいとか役者魂に燃えている俳優とか、そういう俳優じゃなかったんです」と苦笑する。

今年俳優生活50周年を迎える。18歳で資生堂の専属モデルとして脚光を浴び、俳優に転じてからは「芝居をするのは面白い」と、この道を進み続けてきた。成功のひけつを聞くと「やり続けたことじゃないですか」と答えはシンプルだ。これから先も「なるがまま」と流れに身を任せる。「人生設計を組み立てていくタイプじゃないので。でも、それはそれで楽しみですよ。こういう役を考えてくれるんだと、新しい台本をいただくことが楽しみです」。

ダンディーで落ち着いた口調。大御所だが威圧する空気は全くない。「当時1億円稼げる仕事があったら役者を続けたか」との質問に、「分からない」と切り返すおちゃめな人でもある。

「役者を続けていけるのはあと10年あるか分からんけどね。最後までやろうとは思ってますよ、もちろん。でも10億円くれるって言ったら…なびくかもしれんね(笑い)」。

10年後も引っ張りだこの未来が見える。

◆「人生に必要な知恵はすべてホンから学んだ」 草刈が映画やドラマなどで演じた役柄の名ぜりふとともに、駆け出し時代や母との思い出や半生を振り返る。出演作「真田太平記」「真田丸」「なつぞら」のせりふ集をエピソードとともに収録。8月11日発売。

◆草刈正雄(くさかり・まさお)1952年(昭27)9月5日、福岡県生まれ。父は米国人で母は日本人。70年に資生堂専属モデルとなり、CMで一躍注目。74年の映画「卑弥呼」で俳優デビュー。17年に芸歴47年目での初写真集出版が話題に。185センチ、血液型O。