映画「宮本から君へ」(真利子哲也監督)の製作会社スターサンズが、助成金交付内定後に下された不交付決定の行政処分の取り消しを求めて、文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)を訴えた裁判の第3回口頭弁論が27日、東京地裁で開かれた。この日は、原告側が意見陳述を行い、結審。判決の言い渡し期日は後日、決定する。

映画は19年3月12日に本編が完成したが、同日に出演者のピエール瀧がコカインを使用したとして麻薬取締法違反容疑で逮捕された。製作側には、同29日に芸文振から助成金(1000万円)交付内定の通知が送られていたが、同4月24日の試写後、芸文振関係者から瀧の出演シーンの編集ないし再撮の予定を問われ、製作側はその意思がないと返答。19年6月18日に、瀧が懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡されると、同28日に芸文振から不交付決定が口答で伝えられ、同7月10日付で「公益性の観点から適当ではないため」との理由で不交付決定通知書が送られた。

原告側は、20年2月25日の第1回口頭弁論から一貫して「公益性の観点から適当ではないため」との理由による芸文振の不交付決定を、行政裁量の逸脱、乱用だと主張してきた。第3回口頭弁論の意見陳述でも、文化芸術の向上に関する利益を無視し、公益性という用語を用いて処分を行ったことは明らかに裁量権の逸脱だと主張した。

また被告が、映画を作る権利自体を制限する処分(規制行政)ではなく、映画が19年9月27日に公開できたという事実をもって、処分と憲法上の問題が無関係だと主張していることに対して「かかる発想は、もはや時代遅れの憲法論というほかありません」と批判した。その上で裁判所に対し「コロナ禍及び緊急事態宣言下において長く苦境に立たされている映画業界、文化芸術関係者への『希望の灯』となる、そして文化芸術表現の『萎縮の連鎖』を断ち切る契機となる判決を下していただきたく切に願うものです」と訴えた。

第3回口頭弁論後、原告側は会見を開いた。四宮隆史弁護士は「助成金を決める際、公益性という要件は要項にもどこにも書かれていない。それを理由に不交付処分を行った。法律も何も根拠規定がない不交付処分は、あまりに不当」と指摘。その上で「要項に後付けで(19年)9月に改訂し、公益性の観点から内定の取り消しが出来るとした。募集案内にも、スタッフ、キャストが重大な刑事処分を受けた場合は不交付、不交付の可能性があるとの一文が記載された。この映画の交付時には、1つもなかった。表現の自由、文化芸術に関わる皆さんの表現の萎縮につながる可能性がある」と首をかしげた。

「宮本から君へ」は、90年に漫画誌「モーニング」で連載された新井英樹氏の漫画が原作。文具メーカー「マルキタ」の営業マン宮本浩の愚直なまでの生き様を描き、池松壮亮主演で18年にテレビ東京系で連続ドラマ化(全12話)されたのを経て映画化された。劇中で、瀧は宮本の前に立ちはだかる真淵拓馬(一ノ瀬ワタル)の父、敬三を演じているが、出演シーンは本編129分中11分で、出演率は9%に満たない。