今、日本映画界で仲野太賀が熱い。元々、熱かったが、沸騰したお湯が、ヤカンから噴き出すような、そんな熱さを、昨今の仲野からは感じる。

1月21日に都内で行われた映画「すばらしき世界」(11日公開)のプレミア上映会で、仲野と長澤まさみ(33)がリポーターに扮(ふん)し、主演の役所広司(65)を直撃するという演出があった。その際の役所のやりとりに、今の仲野の熱さが表れている。

 

仲野 ぶっちゃけ、仲野太賀、どうでした?

役所 仲野太賀君、出てたっけ?

仲野 いや、いや、いや!

役所 あっ、俳優さんね? そうねぇ…。

仲野 眼鏡のディレクター役で。

役所 そう、そう…彼は映画小僧です。映画大好き。カメラ大好き。なかなか、素晴らしい俳優さんだと思いますよ。

仲野 そうですかぁ…本人、相当、喜んでいると思います。

役所 あの人はねぇ…愛されキャラですね。なかなかやるんですよ。かわいがられるキャラを、普段から演じていますね。

仲野 いやぁ~、ずる賢いですね。非常にずる賢いタイプかも知れません。

 

仲野は同作で、長澤演じる先輩テレビプロデューサーから、役所演じる受刑者の密着取材を依頼された、テレビ局を辞めて小説家を目指す青年を演じた。顔全体、全身を使って躍動するような演技は、見ていてスクリーンから飛び出してきそうだ。

昨年11月公開の主演映画「泣く子はいねぇが」(佐藤快磨監督)でも、目に焼きついている場面がある。仲野は娘が生まれて喜ぶ一方、父になる覚悟が見えない子供じみた男を演じ、秋田県男鹿半島の海辺で全裸で走り回るシーンを演じた。撮影は同年1月だったという。会見で、そのことを質問すると、仲野は「1月の秋田の海。死を覚悟する寒さだった」と吐露した。

撮影中、数テークを撮ったが、撮影時間は数分に収めたという。それでも、その寒さは尋常ではなかっただろう。「スタッフは環境を整備して、裸一貫(で演じるシーン)に至るまで準備していただいた。でも、あの寒さは過去イチ」と苦笑いした。よほど映画が好きでなければ、あのシーンは演じられないだろうし、スタッフへの感謝の言葉も出ないだろう。

19日公開の映画「あの頃。」(今泉力哉監督)でも、非常に振り切った演技が印象的だ。仲野は劇中で「ハロー! プロジェクト」に青春をささげた揚げ句、バンド「恋愛研究会。」を結成した、藤本美貴(35)推しのアイドルオタクを演じた。本編を見ていて、ハロプロの筋金入りのオタクとしか見えないほどだ。

その本気度は、スクリーンの中にとどまらず、宣伝イベントでも“さく裂”した。3日に都内で行われたイベントでは、藤本本人がサプライズで登壇。仲野は「やったー! 本物だーっ!! うわーっ…うれしい。天地がひっくり返った感じがしました」と両手を挙げて興奮した。役作りの際は、ハロプロのライブ映像などを見たという。「汗が止まらない。ライブ映像も見させていただいて」と額の汗を何度も手で拭う、入り込んだ役をイベントの壇上でも見せる、その姿勢には胸を打たれた。

近年の映画の出演本数を見てみると、18年5本、19年4本、20年7本、そして今年は2月だけで2本が公開される。テレビドラマでも、昨年10月期のTBS系「この恋あたためますか」で真っすぐで恋に不器用なコンビニスイーツのパティシエを熱演し、ファン層を広げたが、やはり仲野の主戦場は映画であり、スクリーンだとみる。映画製作関係者、配給、宣伝、そして取材に注力するメディアの間でも「次の日本映画界を支える存在は仲野太賀」との声が多い。

日々、映画の取材をしているが、宣伝イベントを含め、これほど映画を楽しんでいる俳優は、いないと感じる。役所が「映画小僧」と口にするのも、納得だ。7日で28歳になった仲野太賀…今、最もインタビューしたい俳優だ。【村上幸将】