山田洋次監督(89)の新作映画「キネマの神様」(6日公開)公開記念舞台あいさつが5日、都内の新宿ピカデリーで行われた。席上で、主演が決まっていたものの、20年3月に新型コロナウイルス肺炎で亡くなった志村けんさん(享年70)に代わって主演した、歌手沢田研二(73)がコメントを寄せた。

「志村さんのお気持ちを抱きしめ、やり遂げる覚悟です。あの日から新型コロナとともに歩んだ72歳…精いっぱいの姿です。せんないですが、志村さんのゴウが見たかった。私は、この映画を封切館で初めて見ようと思っています。沢田研二」

映画は当初、志村さんと菅田将暉(28)がダブル主演し、かつて撮影所で働き夢を追いかけていた主人公ゴウの過去と未来を演じる予定で20年3月1日にクランクインした。ただ、志村さんが新型コロナウイルスに感染し、同月上旬の撮影を前に肺炎治療のため降板。若き日のゴウのパートは、同月末までに撮影が終了したが、同29日に志村さんが急逝。同4日から感染拡大予防の観点から撮影が一時、見合わせられた。その中、志村さんと多くの共演経験がある沢田が代役として、14年ぶりに映画に出演。当初は同12月の公開が予定されていたがコロナ禍で2度、公開が延期された。

沢田は、志村さんの代わりとしての映画への出演であり、あくまでも映画本編への出演のみが自身の役目であるという考えから製作、配給の松竹とも当初から合意し、3月29日に都内で行われた完成報告会見を含む宣伝活動の予定はないとしていた。山田監督は「僕は今(沢田のコメントを)初めて聞きました。やはり、沢田さんはこの仕事を引き受けるについては、相当な覚悟だったんだろうなと改めて感じました」と感慨深げに語った。

劇中には、志村さんのヒット曲「東村山音頭」を、ゴウを演じる沢田が歌うシーンがある。楽曲を決めた理由について、山田監督は「あそこで、ゴウちゃんが酔っぱらって歌う設定は台本の上ではあった。何を歌うのか…いろいろ考えましたし、沢田さんとも相談し、彼のヒットソングを歌うのもありかもしれないけれど、ちょっと違和感があるなぁと」と沢田の楽曲を使うことも1度は検討したと明かした。その上で「そのうちに、志村けんの『東村山音頭』というアイデアが浮かんできだ。その歌を歌えば、彼に対するオマージュになるだろう。あそこで、もう1回、今は亡き志村けんを思い出す、彼にささげるという気持ちで、あの歌を聴く…二重の効果があるだろうなと思った。実際、彼(沢田)に歌ってもらうとピッタリはまっていた。そういうことで決めた。とてもいい判断だったと僕は思っています」と語った。

菅田は、沢田が撮影中の現場を訪問したという。「1回、沢田さんの撮影の取り組む様子は見させていただきました。ちょうど『東村山音頭』を、これから歌うみたいなシーンの直前だったのかな? すごく集中されていて、誰も近づけない空気があった。その姿を一目見ただけで、沢田さんの作品に臨む思いというのがあふれて出ていたので楽しみにしていましたし。沢田さんが自身が見た時に、どう思うのかなぁというのは、それ(コメント)を聞いて純粋に気になりますけど、同じ人物を演じられたといことは、すごく光栄」と振り返った。

「キネマの神様」は原田マハ氏の同名小説の実写化作品。ギャンブル漬けで借金まみれのゴウ(沢田)は妻の淑子(宮本信子)と娘の歩(寺島しのぶ)にも見放されたダメ親父だが、たった一つだけ愛してやまないものは「映画」だった。若き日のゴウ(菅田)は助監督として、映写技師のテラシン(野田洋次郎)、スター女優の園子(北川景子)、撮影所近くの食堂の娘淑子(永野芽郁)に囲まれながら夢を追い求め、青春を駆け抜けていた。しかし初監督作品「キネマの神様」の撮影初日に転落事故で大怪我し作品は幻となってしまった。半世紀後の20年「キネマの神様」の脚本が出てきたことで、ゴウの止まっていた夢が再び動き始める物語。

この日はRADWIMPS野田洋次郎(36)と宮本信子(76)、そしてスケジュールの都合がついた北川景子(34)も登壇した。