東京オリンピック(五輪)公式記録映画の監督を務める河瀬直美監督(52)が11日、NHK大阪放送局がBS1で21年12月26日に放送(同30日に再放送)したBS1スペシャル「河瀬直美が見つめた東京五輪」の字幕の一部に、不確かな内容があったと前日10日に発表した件についてコメントを発表した。

同監督は、自身もNHKから取材を受ける立場の1人であり、番組内容を事前に把握することは不可能だと説明。その上で、NHKの取材に公式映画チームが取材した事実と異なる内容が含まれていたと指摘し「本当に、残念でなりません」と遺憾の意を示した。

番組では、河瀬監督と公式映画チームが、21年7月23日の東京五輪開会式の最中に会場の国立競技場周辺を歩き、コロナ禍で緊急事態宣言が発出された中、五輪に反対するデモを行う人々らを取材したり、福島県営あづま球場ら各競技場で、現場の運営担当者に取材許可の交渉を自ら行うところなどに密着。また同監督の教え子で撮影に参加した、島田角栄氏にもインタビューを行った上で、同氏が東京五輪期間中に、さまざまな立場の人々に取材、撮影するところにも密着している。

問題のシーンは、ドキュメンタリーの後編にある、島田氏が男性を取材した場面だ。年配の男性が公園で「デモは全部、上の人がやるから(主催者が)書いたやつを言った後に言うだけだから」「予定表をもらっているから、自分。それを見ていくだけで」などと語っている。その取材の前に男性が街中を歩いているシーンが流れるが、そこに「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕がついている。

NHKは「映画の製作中に、男性を取材した場面で『五輪反対デモに参加しているという男性』『実はお金をもらって動員されていると打ち明けた』という字幕をつけました。NHKの取材に対し、男性はデモに参加する意向があると話していたものの、男性が五輪反対デモに参加していたかどうか、確認できていないことがわかりました。NHKの担当者の確認が不十分でした」と説明。その上で「番組の取材・制作はすべてNHKの責任で行っており、公式記録映画とは内容が異なります。河瀬直美さんや映画監督の島田角栄さんに責任はありません。字幕の一部に不確かな内容があったことについて、映画製作などの関係者のみなさま、そして視聴者のみなさまにおわびいたします」と、公式記録映画とドキュメンタリーの内容は違うとして、謝罪した。

河瀬監督は「昨日、NHK大阪局より一部内容についての謝罪と経緯の説明がありましたので、これを受けて、自らの言葉でお伝えいたします。五輪反対デモに参加していると紹介された男性について、公式映画の担当監督の取材において、当該男性から、『お金を受けとって五輪反対デモに参加する予定がある』という話が出たことはありません」と説明した。

加えて「また、番組内で、担当監督が取材のまとめ映像を私に見せるという場面がありましたが、このまとめ映像にも、当該男性は含まれていません。本番組においては、私は被取材者の1人ですので、事前に内容を把握することは不可能です」と、番組の事前チェックはしていないと断言した。

ドキュメンタリーの中には、公式映画チームが撮影した映像も使用されている。その場合は「撮影:公式記録映画」とテロップがつけられているが、男性を取材する島田氏を撮影した当該シーンにテロップはなく、NHKが独自で取材、撮影した映像とみられる。

河瀬監督は「今回のNHKの取材班には、オリンピック映画に臨む中で、私が感じている想いを一貫してお伝えしてきたつもりでしたので、公式映画チームが取材をした事実と異なる内容が含まれていたことが、本当に、残念でなりません」と訴えた。

東京五輪公式記録映画「東京2020オリンピック(仮)」の公開日は6月に決まっている。河瀬監督は「現在は、6月の公開に向けて、たくさんの登場人物の、唯一無二な時間の数々と向き合いながら、鋭意編集作業を進めています。映画を楽しみにしてくださっている皆様のもとに、この作品がお届けできるその時まで、真摯に創作に打ち込みたいと思います」(原文のまま)と、5000時間以上にも及んだ撮影した映像と向き合い、編集に集中していく考えを強調した。