第94回アカデミー賞で4部門にノミネートされた「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督(43)と主演の西島秀俊(50)霧島れいか(49)岡田将生(32)が授賞式前日の26日(日本時間27日)米ロサンゼルスで日本のメディアの取材に応じた。

「ドライブ・マイ・カー」は、邦画初の作品賞と脚色賞(濱口監督と共同脚本の大江崇允氏)監督賞、国際長編映画賞の4部門にノミネート。米アカデミー賞の前哨戦として知られるゴールデングローブ賞で、市川崑監督の「鍵」(59年)が60年に旧名称の外国語映画賞を受賞して以来、邦画では62年ぶりのが非英語映画賞を受賞。全米批評家協会賞でも作品賞、監督賞(「偶然と想像」と併せて)、脚本賞、西島がアジア人初の主演男優賞と主要4冠を獲得し、米国内でも評価が高い。

それでも、濱口監督は「この立場になって、はっきりと言えることは、下馬評というのは何の意味もないということです。誰も知らないのだから。分からない。ただ、ノミネートしていただいたことは素晴らしいことだと思っています」と、あくまで冷静に現状を見詰めた。

その上で「自分自身も他にノミネートされた作品を見て、この中にこの作品がいるというのは本当に、すごいことだと思うので、そういう点ではどこに賞がいってもおかしくない。もし我々のところに来たら、スタッフ、キャスト含めてここに来られているみんなで喜びを分かち合いたいですが、この場にいること自体がすごいことなんだと感じています」と心境を語った。

アジアの映画が作品賞、監督賞、国際長編映画賞にトリプルでノミネートされるのは、20年に非英語作品として初の作品賞をはじめ監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4冠を獲得した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」以来2年ぶりの快挙だ。日本人監督の監督賞へのノミネートは、66年「砂の女」の勅使河原宏監督、86年「乱」の黒澤明監督以来36年ぶり3人目。邦画が国際長編映画賞にノミネートされるのは、19年の「万引き家族」(是枝裕和監督)以来3年ぶりで、受賞すれば09年の「おくりびと」(滝田洋二郎監督)以来13年ぶりと、記録ずくめのノミネートだ。

それでも、27日(同28日)にドルビー・シアターで行われる授賞式を前に「夢の世界。ハリウッドのみならず、素晴らしい映画人が集まっているので、いち映画ファンとして、あんなところにデンゼル・ワシントンが、あんなところにペネロペ・クルスが、ということを単純に楽しみたいと思います。あとは、今年のアカデミー賞が、どこにいくのかを楽しみたいと思います」と、あくまで楽しむスタンスを貫いた。

21年に世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭で邦画初の脚本賞を受賞したのを皮切りに、世界各国で多くの賞を受賞してきた。濱口監督は「この映画と一緒に素晴らしい旅をさせていただいたと思っています。本当にこの映画が多くの言語と国境の壁を越えて届いているのは、ここに映っている役者さんたちの力だと声を大にして言いたいです。多くの方に見ていただいたことをとても誇らしく思っていますし、明日もちゃんと胸を張っていられると思っています」と力強く語った。(ロサンゼルス・千歳香奈子通信員)

◆「ドライブ・マイ・カー」 作家の村上春樹氏(73)が13年11月発売の「文芸春秋」12月号に発表した短編で、同誌14年3月号まで連続で掲載した「女のいない男たち」と題した連作の第1弾。14年の短編小説集「女のいない男たち」(文春文庫刊)に収められており、濱口監督は長編映画を作るために、同作に加え「女のいない男たち」に収録された6編の短編の中から「シェエラザード」「木野」のエピソードも投影し、脚本を作り上げた。