仮想空間から新時代を切り開いていく。日本テレビはVTuberを中心としたコンテンツ制作を行っていた事業を4月から分社化し、100%子会社のClaN Entertainment(以後、ClaN)を設立した。6月からはオフィスも東京・汐留の本社から目黒へと移し、新たなスタートを切った。急成長中の業界でどう戦っていくのか。そもそもVTuberとは? メタバースって何? 発起人で社長にも就任した大井基行氏(28)に展望などを聞いた。【松尾幸之介】

最近よく聞くようになったVTuberとは、バーチャルYouTuberの略称。世界的にも市場は急速に拡大中だが、まだまだあまりなじみのない人も多いだろう。YouTuberの進化形? そうではない。大井氏は「一言で言うと、CGアバターを活用して活動している人たちの総称です」と説明した。

VTuberは2010年代後半から徐々に出現し始めた。当初は女性CGキャラクターなどが人気だったが、近年は多様化。男性のキャラクターや生き物などを模したものもある。必ずしもYouTubeで配信を行っているとも限らなくなってきており、大井氏は「最初の頃はCGアバターの裏方や仕組みが話題になっていましたが、今はそこよりもそのキャラクターが人であり、それを楽しんでいくという形になっています。新しい形のタレントというか、アバターで違う自分になって活動している、新しい生き方をしている人の総称でもいいと僕は思っています」と話した。

近年はメタバース(仮想空間)といった新たな世界にも注目が集まっており、VTuberもそうした世界で活躍することができる。業界の広がりは数字からも見ることができ、18年3月に1000人程度だったVTuber数は21年秋には15倍以上の1万6000人を突破(ユーザーローカル調べ)。大井氏は「例えば小さい子ども向けのVTuberに、クマをモチーフにしたクマーバというキャラクターがいます。リアルなYouTuberと同じような感覚で今の子どもたちは見て育ってきている。高校生の好きなYouTuberランキングを見ても、はじめしゃちょーら人気YouTuberを差し置いてVTuberが上位にきていたこともありました。アニメなどの二次元が好きな人だけでなく、ゲーム実況などからVTuberにハマる人もいます。今はまだ始まったばかりですが、こうした流れが文化として広がっていくという確信はあります」と力を込めた。

ClaNは5月に日テレ系報道番組「news every.」にVTuberが交代で出演し、SNSでニュースを紹介する新コーナーを設けるプロジェクトを発表。まだ親しみのない世代への魅力発信も積極的に行っている。大井氏は「報道番組にVTuberが出るのは世の中の人に伝えるという意味でもいい取り組みになったと思います。普段、見ていない人からも『こんな存在がいたのか』という声も頂いています。知ってもらうきっかけをどう作っていくかが重要で、そのひとつがテレビ。今後はリアルなタレントとVTuberがコラボして交流する企画なども積極的に行っていきます」と力を込めた。

最後に、まだVTuberを見たことがない人々へのメッセージももらった。「まずは体験してほしいです。最初は違和感もあるかもしれないですが、それは当たり前だと思っています。でも、これからは間違いなくバーチャルの世界にもアクセスしやすい世の中になってくる。違う世界で違う自分を築き上げられる。それを体感してほしいなと思いますし、僕らもいろんなきっかけ作りをしていくので、琴線に触れたタイミングで入ってもらえたらと思います」。

仮想空間で生活し、VTuberらと共に生きる。そんな世の中がもうすぐそこまで迫っているかもしれない。

◆ClaN Entertainment 大井氏が社内の新規事業募集制度に応募したことなどをきっかけに、18年8月に2人のメンバーチームから社長室付でVTuber事業を開始。オンラインイベントやバーチャルライブなどを実現させ、3年目の20年からは売上高も大きく増加。21年には日テレ初のVTuber番組「プロジェクトV」も立ち上げた。22年4月に分社化し、目黒の新オフィスでは約20人の社員、スタッフが働いている。

■リアルなタレントとVTuberがコラボ

ClaNは7月1日から14日まで、DMMと共同で、メタバースやインフルエンサーマーケティングなどをテーマにしたビジネスフェス「VCTEC2022」を開催する。大井氏は「ビジネスマン1人1人も影響力を持って活動していけるような、人生の選択肢が増える、そういう世の中をつくっていきたい」。また、同3日には「プロジェクトV」の1周年記念オンラインライブ「Summer Voyage!!」も開催。スペシャルサポーターの中川翔子やMay J.、乃木坂46メンバーの出演が決まっており、VTuberとコラボライブなどを行って盛り上げる。