おもしろいラジオ番組の陰に、おもしろい放送作家あり-。放送業界では、そう言われているらしい。では、どんな仕事をしているの? 数々のラジオの人気番組を担当してきた放送作家の藤井青銅さん(66)が語る「これも放送作家の仕事です」。【秋山惣一郎】

-放送作家って何をする仕事ですか

「何なんでしょうね(笑い)。スタジオでのトークの放送台本やラジオドラマの脚本を書く。バラエティーの構成も手がけるし、企画を考え、取材や下調べもします。僕はやらないけど、パーソナリティーの向かいに座って指示を出す人もいますね」

-深夜放送の人気パーソナリティーとなったオードリーを見いだしたことでも知られます。それも放送作家の仕事ですか

「光るものがあるのに埋もれていたり、どうしたらいいか分からず、迷っていたりする若い人はたくさんいます。その才能を見つけて磨いてあげるのも放送作家の仕事だと、僕は思っています」

-オードリーは何が光っていたのですか

「ラジオに限らず、芸能界で長く活躍するのは、トーク力のある人です。本業がいまひとつでも、しゃべれる人は、活躍の場を広げることができます。ラジオ番組を持てば、トーク力は上がっていく。テレビでもしゃべれるようになる。でも、売れなきゃ番組は持てず、トーク力は上がらない。ということで20年近く前、くすぶってる若手芸人を何人か連れてきて、自由にしゃべらせる番組を作ったんです。そこで『おもしろい』と思ったのが、まだ無名だったオードリーの若林正恭さんです。独自の視点で物事を見て、おもしろくしゃべる才能を持っていた。2008年(平20)のM-1グランプリでブレークした後、ニッポン放送に『オールナイトニッポン』を、と進言しました。でも、僕は別に彼らをラジオスターに育てようというつもりはなかった。自分がおもしろいと思ったから売れて欲しかっただけです」

-ラジオとテレビの放送作家との違いは?

「若いころ、殺人事件のラジオドラマを書いたんです。その時、大先輩が『凶器は銃で』と言う。刃物だと音で伝わりづらいが、銃声だとすぐに分かるんだ、と。音だけで表現するラジオって、そういうことなのか、と納得しました。トーク番組でも同じです。『約』は『百』に聞こえるんで『およそ』と書く。日本語は同音異義語も多い。ラジオには、音だけで伝えるテクニックが必要なんです」

「ラジオは少なくともパーソナリティーとディレクター、放送作家の3人で番組が作れます。それぞれとの距離が近いし、人数が少ない分、放送作家の個性も出る。その点、テレビの、特にゴールデンタイムの番組だと、ディレクターが5、6人、放送作家も10人ぐらいいます。出演者と会わずに終わることだってある。『僕は何十分の一なのか』と思うと、なんだか寂しくってね。テレビの仕事もしましたが、やっぱりラジオに戻りました」

-近著「一芸を究めない」には、腹話術師いっこく堂のプロデュース、柳家花緑に新作落語を提供、小説、歴史書、作詞も手がけるなど多彩な仕事ぶりが描かれている。これらも放送作家の仕事ですか

「僕は小説を書きたかったけど才能がないんで、いろいろやってるだけです(笑い)。ただね、僕が落語作家を名乗ってたらラジオの仕事は来ない。小説家だったら、いっこく堂プロデュースの話もないでしょ。ところが、なぜか放送作家には、いろんな仕事が来る。間口が広いというか、便利というか、いわば『偉大なる腰掛け職業』です」

-楽しそうで、いい仕事ですね

「新聞のラテ欄にはテレビの地上波、BS、ラジオなど番組がたくさん載っています。およそいないだろう、と思うような番組にも放送作家はついてます。僕も若いころ、ラテ欄を見て『仕事はこんなにある』と自分に言い聞かせてました。本を書いて生活するのは大変だけど、放送作家なんていいかげんなんで、まぁいい仕事なんじゃないですか。ただ僕が今、20代だったら、なりたいとは思うかなぁ。YouTuberになりたい、なんて思ってるかもしれませんね(笑い)」

◆藤井青銅(ふじい・せいどう)1955年(昭30)、山口県生まれ。79年「星新一ショートショートコンテスト」入賞を機にラジオドラマの脚本を手がける。「松田聖子 夢で逢(あ)えたら」「伊集院光のOh!デカナイト」「オードリーのオールナイトニッポン」(いずれもニッポン放送)など人気ラジオ番組を手がける。ラジオ、テレビのほか小説、随筆、作詞など幅広く活動してきた仕事術をまとめた近著「一芸を究めない」(春陽堂書店)が発売中。