“天職”を夢へとつなげる。女優伊藤梨沙子(27)が保育とエンターテインメントが融合したベビーシッター会社「Fluffy Ket」(フラッフィーケット)を設立した。歌やダンスなど芸能活動経験のあるスタッフらによるエンタメ要素を取り入れた保育サービスを提供するもので、4月から事業を開始。5月末からは今後の定期開催を目指すショーステージ実現を目指したクラウドファンディングも初実施している。このほど“新米社長”となった伊藤と共同設立者でナレーターや役者などとしても活躍する合田友(27)が取材に応じ、活動への思いを語った。

決意を込めて新たな1歩を踏み出した。昨夏から起業へ向けた準備を進め、今春から本格的に事業を開始。伊藤は「もともとベビーシッターのお仕事も19歳からやっていました。芸能のお仕事も充実して楽しいし、ベビーシッターもエンタメ経験を生かしてできているなと思っていました」と語る。決断の理由については「もっと楽しく、周りの芸能関係者の女性が働きやすくなるようにできればいいなと考えていて、だったら自分が立ち上げて周りがもっと幸せになれるようになったらいいなと思って決めました」と説明した。

立ち上げにあたり「最初に思い浮かんだ」のが日大芸術学部時代の同期でもある合田だった。昨年7月30日、合田の誕生日に2人で訪れたディズニーランドで、事業の話を切り出した。

合田 数年ぶりに会って、(アトラクションの)スター・ツアーズに並んでいる時に「一緒に起業しない?」と言われて(笑い)。彼女は昔から潔い性格。自分も起業のことは全くわからないけど、梨沙子とならできるかもしれないと思って、すぐに『いいね』と言いました。私が一番好きな場所でだったので、それもうれしかったです。

イチから起業について学び、「サイコーの日です(笑い)」(伊藤)という今年3月15日に無事に登記を完了。4月上旬に父親の会社同僚の紹介で受けた発注が初仕事となった。キャストを増やすため、母校の日大芸術学部を訪れて説明会も行った。同学部は俳優らを多く輩出しており、「最初は変なお姉さんが2人来たと怪しまれてました(笑い)」というが、次第に思いに共感した学生らが参加してくれるようになり、今では20人を超えるスタッフを抱える。

キャストの教育役も務める合田は、後輩スタッフから「こんなにやりがいのある仕事に出合えてうれしいです」と声をかけられたと明かす。「『子どもたちを“観客”として楽しませることができるし、先輩たちに出会えてよかったです』と言ってもらえて。この子たちをしっかり食べさせてあげられるように頑張ろうと思いました」。

もともと2人も芸能活動との兼業がしやすいことからベビーシッターの仕事を始めた。伊藤は「どちらの仕事もおばあちゃんになるまでやっていきたい天職だと思っていました」。父に作家で歌手の合田道人(61)を持つ合田は幼い頃から自宅でマネジャーらのお世話になることも多かったといい「私自身もマネジャーさんたちとのふれあいで学べた部分も多かったですし、父母だけでは培えなかった性格も持っていると思っています。母は『会社の人もいたから子育てと仕事の両立がしやすかった』と言っていました。私も両親以外にも頼りにできて、自分をさらけ出せる場所を提供できる人になりたいと思っています」と力を込めた。

Fluffy Ketでは5月末からシッターによるショーイベント実現を目指したクラウドファンディングも開始した。ホールに親子を招いたキャストによるステージを実施予定で、6月末までを期限に目標の50万円達成を目指す。伊藤や合田とのオンライン対談などもリターンに盛り込んでおり、成功すれば8~9月に実施予定。伊藤は「ショータイムを実際に見ていただいて、この人にお願いしたい!と言っていただけるような最高のシッターさんと出会える場を設けられたらいいなと思っています」と話した。

合田も「ゆくゆくは桃太郎とかを本格芝居でやりたいなと思っています。コンサートに出ていたお姉さんがお家に来るという感じで、そうした子どもたちがワクワクするサービスを提供したいなと思っています」と意気込んでいる。

事業開始から約2カ月。すでにリピート客もつくなど、事業は順調に動き出しているという。伊藤は「ありがたいことに公式LINEの登録者数も一気に増えました」と話す。現状のシッターの派遣範囲は関東近郊まで。自宅でのお世話や子どもの送迎など、他社と同水準の値段で受け付けている。

キャストには“エンタメシッター”となるべく社内研修などの受講も義務づけており、伊藤は「他人に子どもを預けることに罪悪感を感じる親御さんが多いのも事実です。そこで子どもが楽しませてもらうのであれば頼みやすいのではないかなと思っています。子どもたちにはシッターが来たというよりかは遊園地や動物園に行ったような感覚で迎えていただいて、楽しい時間を共有してくれたらうれしいです」。

合田は「今後はよりキャストを豊富にしていきたい」と意気込む。キャスト指導については「うちは芸能活動をやっている人も多く、みんなお客さんに向けて何かを披露する職業です。研修では子どもたちをお客さんだと思って接するようにと伝えていますし、どうやったらその子たちにとっての最高のベビーシッターになれるかを考えて、普段の仕事の時と同じぐらいの気持ちで接してごらんと。『繰り返していけば大きな舞台でも力になっているかも』と言ってくれる子もいました。自分も含めてみんなで頑張っていきたいです」。

挑戦は始まったばかり。業界に新風を吹かせながら、芸能×ベビーシッターの新たな価値の創造を目指す。【取材・構成=松尾幸之介】

 

◆伊藤梨沙子(いとう・りさこ) 1996年(平8)2月20日、東京都出身。10歳から芸能活動を始め、08年からは松岡茉優らと共にテレビ東京系「おはスタ」のおはガール、女性向けファッション誌「ピチレモン」専属モデルなどを務める。NHK Eテレ「さんすう犬ワン」、TBS系ドラマ「アトムの童」などにも出演。ベビーシッターとしてはJADP認定ベビーシッター・ACSAベビーシッター養成+現任研修修了・救命技能認定証取得済み。

 

◆合田友(ごうだ・ゆう) 1995年(平7)7月30日、東京都出身。6歳で童謡歌手デビューし、現在はナレーター業を中心に、役者、司会者などとして活躍。Audible「ナルニア国物語」のナレーションや17年の映画「東京ボーイズコレクション エピソード1」などに出演。インスタグラムではうたのお姉さんとしても活動。ベビーシッターとしては総サポート回数900回を超え、7色に声色を使い分ける朗読が得意。認定ベビーシッター資格、プロフェッショナルベビーシッター資格、準育児士、子育て支援員(地域保育コース)、ACSAベビーシッター養成研修+現認研修、居宅訪問型保育基礎研修、救命技能認定証、モンテッソーリトレーナー資格、知育レクリエーションインストラクター、チャイルドコーチングマイスター、アレルギースペシャリスト等の豊富な資格も持つ。