1923年(大12)9月1日に発生した関東大震災後の混乱の中、発生した実際の事件を題材にした映画「福田村事件」(9月1日公開)の森達也監督(67)と木竜麻生(29)が21日、都内の日本外国特派員協会で会見を開いた。木竜にとって、初の日本外国特派員協会での会見となった。
「福田村事件」は、関東大震災から5日後、千葉県福田村で行商団9人が地震後の混乱の中で殺された、実際の虐殺事件が題材。関東大震災から100年となる23年に、なぜ行商団の9人は殺されたのか、なぜ村人たちは殺したのか…歴史の闇に葬られていた実話を基に、ドキュメンタリー監督、作家の森監督が、自身初の劇映画として作り上げた。
劇中で、千葉日日新聞の若手記者・恩田楓を演じた木竜は、質疑応答で役作りについて聞かれ「当時の記者だったり、記者ではなくても新聞社で働いていた方の本を読んだり。当時の女性の感覚は想像で補ったり、森さんに現場の記者の話し方とか、補ってもらって作りました」と説明。政治色の強い作品だけに、出演に及び腰になることはなかったか? との質問には「今回の作品に関わることで、リスクは感じていませんし、純粋に脚本として面白かったので、俳優として参加できるのが、うれしかったですし、全力で向かっていけたと思います」と振り返った。
質疑応答の中で、実際にあったことを記者として目撃する演技で追体験したことはあったか、トラウマにならないよう気を付けたことがあったか? などと質問が出た。木竜は「どんな出来事もそうですが、体感した人の本当の気持ちには、私はなれないと思って。そこをスタートに、どこまで絶対に分からないところから近づけるのかが根底…という意識で臨んでいました」と、役を演じるに当たっての自らのスタンスを説明した。そして「追体験と言えるのか…。私が感じた痛みでは感じられないものを(実際の記者は)感じたと思うので。大丈夫というのは変ですけど、俳優として良い体験が出来た」と振り返った。
木竜演じる恩田楓は、朝鮮人虐殺などを目の当たりにして、実際に取材しているが、社に持ち帰ってもピエール瀧(56)演じる部長から、書くことを止められる。そうした記者として戦う、一連のシーンについても質問が飛んだ。木竜は「(実際には)絶対、書くという人がいたと思うし、書けなかった本当の理由は分からなかったけれど『書きたい』と言ったことには(俳優として)芯を持って言いたいと思いました」と振り返った。
そのやりとりの中で、森監督が補足で説明に入った。「新人記者が、かみつく部長はリベラルな社にいたが、解散してしまうという設定があります。ジャーナリスティックな気持ちはあったけれど、やってしまうと社員全員が生活できなくなるジレンマがある。だから、恩田に言われて黙り込むだけ」と、裏設定を明かした。その上で「それは、今のメディアの問題と多分、とても近いはず。部数、視聴率を優先してしまう…しょうがないが、悩む記者を出したかった。それは今も同じだと思います」と、真正面から取材して戦っている記者と、その記者が身を置くメディア各社の間に乖離(かいり)があるのは、現在も同じであると強調した。
◆「福田村事件」 1923年(大12)澤田智一(井浦新)は、教師をしていた日本統治下の京城(現ソウル)を離れ、妻の静子(田中麗奈)と共に故郷の福田村に帰ってくる。澤田は日本軍が朝鮮で犯した、虐殺事件の目撃者だったが、妻の静子にもその事実を隠していた。その同じ頃、沼部新助(永山瑛太)率いる行商団一行が、関東地方を目指して香川を出発したが、9月1日に関東地方を襲った大地震によって、多くの人々はなすすべもなく、流言飛語が飛び交う中で、大混乱に陥る。そして同6日。沼部率いる行商団15名は、次なる行商の地に向かうため利根川の渡し場に向かうが、沼部と渡し守(東出昌大)の小さな口論に端を発した行き違いが、興奮した村民の集団心理に火をつけ、阿鼻(あび)叫喚のなかで、後に歴史に葬られる大虐殺を引き起こしてしまう。



