永瀬正敏(57)の主演映画「箱男」(石井岳龍監督、今年公開)が、2月15日にドイツで開幕する世界3大映画祭の1つ、ベルリン映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門に正式招待された。配給のハピネットファントム・スタジオが15日、発表した。

「箱男」は、1993年(平5)に亡くなった芥川賞作家・安部公房さんが73年に発表した代表作の映画化作品。1997年(平9)に製作が決定も、ドイツでのクランクイン前日に頓挫。幻の企画となっていたが、石井岳龍監督(67、当時は聰亙)が、23年夏に執念で撮影にこぎ着けた。永瀬は「27年前、ドイツ・ハンブルクでクランクイン直前に、志し半ばでほぼ切れかけた“思いの糸”が、こうして紡がれた事が何よりうれしいです。そして再びドイツの地、ベルリン国際映画祭に特別招待していただけた事、大変光栄ですし、ある意味、奇跡です」と感激した。

「箱男」は、幻惑的な手法と難解な内容で映像化が困難と言われ、ヨーロッパや米ハリウッドの著名な映画監督が映画化を試みたが、安部さんサイドが許諾を出さなかった中、石井監督が安部さん本人から直接、映画化を託された。主演に永瀬、共演に佐藤浩市(63)をキャスティングし、万全の準備をしてハンブルクで撮影を行うべくドイツの地に降り立ったが、不運にもクランクイン前日に撮影が頓挫。撮影クルーやキャストは失意のまま帰国することとなった。

ただ、石井監督は映画化を諦めず、23年5月16日(日本時間17日)にフランスで開幕した世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭の場で「箱男」の製作が発表された。主演には27年前と同じ永瀬、共演には永瀬とともに出演予定だった佐藤が再び名を連ねた。さらに、世界的に活躍する浅野忠信(50)数百人のオーディションで抜てきされた白本彩奈(21)も共演陣に加わった。

撮影は同年夏に関東近郊で行われ現在、編集中だが、くしくも安部公房さんの生誕100年にあたる24年に、宿命のドイツでワールドプレミア上映が決まった。永瀬は「石井岳龍監督の『箱男』に対しての壮大なるロマンと“思いの糸”の強さが、世界中の沢山の方々の心の中に共鳴する事を願うばかりです」と呼びかけた。

佐藤、浅野、白本、石井監督もコメントを発表した。

佐藤浩市 ベルリン映画祭の「箱男」招待には感謝と同時にある感慨があります。石井監督の「箱男」は27年前にドイツでインするはずが諸般の事情で頓挫し、クランクイン直前に彼の地を後にすることになった作品だからです。時を経て新しく創られた「箱男」がドイツベルリンに呼ばれる。27年前とは多少形を変えた作品とはいえ,箱の中からの「箱男」の目線は当時も今も変わりません。

浅野忠信 ベルリン国際映画祭招待決定! とてもうれしいです! 「箱男」ではとてもやりがいのある役を徹底的に楽しんで演じられたのでドイツでどう観てもらえるのか今から楽しみです!

白本彩奈 この作品が構想30数年だと聞いたときは、その背景と、私にとって挑戦的な役であることも相まって正直戸惑いました。それでも決断と覚悟の先に、葉子という大切な役を頂けた瞬間は今でも忘れません。それから、作品と役について、頭から指の先までうんと考えた毎日は、私にとってすごくいとおしい時間となりました。沢山の方の想いが込められた「箱男」チームの仲間に温かく迎え入れていただけたこと、心から感謝しています。私自身がミックスであることで、子供の頃から、お芝居と作品を通して世界の架け橋となることが目標でした。そんな中、ベルリン国際映画祭にお招きいただいたことは大変喜ばしく、同時に高揚感に包まれています。全ては誰よりもエネルギーを帯びてそこにいてくださった監督とチームの結晶であり、改めてその一員となれたことを本当に誇りに思います。今は、ただただ皆さんの目にどのように受け取っていただけるのか、楽しみです。

石井岳龍監督 原作者安部公房さんにお会いして映画化権をいただいたのが32年前、ドイツとの合作でクランクイン前日に中止になったのが27年前、それから数度の成立挫折を経て、映画「箱男」はついに完成間近、ベルリン映画祭でお披露目できることになりました。ここまでの長い間、この作品にご尽力をいただいた多数の関係者の皆さまに改めて深く感謝を致します。ずっと待っていてくれた永瀬さんはじめ、非常に優れた俳優、スタッフたちと、アクチュアルな映画表現の可能性を追究しました。世界中の映画観客に、この挑戦的な映画を堪能していただきたいと願っています。

◆「箱男」段ボールを頭からすっぽりと被り、都市を徘徊(はいかい)し、のぞき窓から一方的に世界をのぞき、ひたすら妄想をノートに記述する「箱男」は、全てから完全に解き放たれた存在であり、人間が望む最終形態だった。そんな「箱男」を偶然、街で目にしたカメラマン“わたし”(永瀬正敏)が、その一歩を踏み出すが、本物の「箱男」になる道は険しく“わたし”をつけ狙い「箱男」の存在を乗っ取ろうとするニセ医者(浅野忠信)、全てを操り「箱男」を完全犯罪に利用しようとたくらむ軍医(佐藤浩市))“わたし”を誘惑する謎の女・葉子(白本彩奈)ら、数々の試練と危険が襲いかかる。果たして“わたし”は本物の「箱男」になれるのか。