演歌歌手坂本冬美(58)が、2年8カ月ぶりに単独座長を務める大阪・新歌舞伎座公演が10月10日に幕を開ける。今年、東京と大阪のビルボードで行った一夜限りの特別ステージのライブ音源も順次発売する。実りの秋を迎え、歌謡界を代表する歌姫が来年の40周年に向けて走り始めた。【取材・構成=松本久】
★座長公演に豪華共演者
新歌舞伎座公演は40周年のキックオフイベント。23年2月以来となる単独座長に「感無量でとても幸せだけどプレッシャーも大きい」と気を引き締める。
「中村梅雀さんや元宝塚トップスターの一路真輝さんも出演します。おふたりの名前を聞いただけで『えっ、どんなお芝居をやるの』と期待してもらえると思うんです。デビュー5年目から座長公演をやらせていただいていますが、今回は他の共演者もすごく豪華。これだけの方が出てくださるからには、多くのお客さまに来ていただきたい。それが一番のプレッシャーです」
公演は芝居と歌謡ショーの2部構成。“本職”の歌謡ショーでは梅雀のベースとセッションし、一路とのデュエットコーナーもある。
「本当に盛りだくさんの内容です。一路さん中心のミュージカルコーナー以外、私はステージに出ています。座長だからといってふんぞり返っていたら良いステージなんか絶対にできませんから。チームワークで頑張ります」
今年1月にはビルボード東京で7年3カ月ぶりとなるライブを行い、6月にはビルボード大阪に初めて立った。多くのカバー曲や「夜桜お七」「また君に恋してる」などのヒット曲をシックな雰囲気の中で歌唱。歌とお酒でファンを酔わせた。このステージのCDを10月8日に、Blu-rayとDVDを11月26日に発売する。
「最初は映像作品だけだと思っていたんですよ。ライブCDは若いころに1度出しているから今回が2度目なんですけど、ボロが出ちゃうというか『聞こえちゃう』んです。映像だと少々音がずれていても気にならないのですが、CDを聞くと案の定、危なっかしいところがたくさんある。『えっ私、こんなにヘタなの!』っていうくらい。でも、出すからには楽しんでもらえたらうれしいですね。ビルボードのステージは普段とは雰囲気も違ってすごく刺激的でした。来年もまたやりたい」
★デビュー曲が大ヒット
1987年(昭62)3月に「あばれ太鼓」でデビュー。作曲した師匠・猪俣公章氏に「この歌ははやらないと思います」と口走って大目玉をくらったことは語り草だ。ところが、予想に反して80万枚超の大ヒットとなり新人賞を総なめにした。
「あのころは、将来は結婚をして子どももいて趣味で歌っているのかな、くらいな感じでした。それがここまで長く歌えるなんて…。嫁にも行かずに40年を迎えるなんて想像もしていなかったので本当に奇跡です」
坂本のことを「色つきのタマネギ」と評したのは作詞家阿久悠氏だ。「むいてもむいても、いろんな色の魅力的な彼女が出てくる」と柔軟性を称賛した。その言葉通り、忌野清志郎&細野晴臣との異色ユニット「HIS」で演歌とロックを融合させ、宇崎竜童作曲の「蛍の提灯」はレゲエ、宮沢和史作曲の「花はただ咲く」はサンバだ。ほかにもカバー曲「また君に恋してる」で新境地を開き、桑田佳祐が作詞作曲した「ブッダのように私は死んだ」では、妖艶な歌詞とサウンドで“優等生”のイメージを打ち破った。坂本が中高時代に打ち込んだソフトボールに例えれば、どんな荒れ球でも難なくキャッチする名捕手のようだ。
「すべての出会いに感謝です。『また君-』がなければドレスを着て歌うことがそんなになかっただろうし、『ブッダ-』は憧れの桑田さんに『曲を書いて欲しい』と思いのたけを手紙4枚に書いて送って作っていただいた。今でも夢のようで宝物の1曲です」
NHK紅白歌合戦にはデビューの翌88年に初出場。以来、約1年の休養をした02年をのぞいて毎年出続けて昨年で計36回になった。
「これもまさに奇跡です。もちろん私も自分なりの努力はしていますが、歌い手はみんなが努力をしています。そんな中、決して歌がうまいわけでもない私が出させていただけている。応援をしてくださる人の力があってこそです」
謙虚な言葉を続けた後で、紅白で9回、歌唱している「夜桜お七」への特別な思いを明かした。
「この曲は94年の発売から30年がたちますが決して古くならない。今の自分があるのはこの曲のおかげと言い切ってもいいと思います。これまで多くの方のアレンジや演出でいろいろな色を出させていただきました」
★「これからの10年は大変」
来年は40周年の節目で、59歳という50代最後の年になる。
「応援してきて良かったと思えるような、華やかな1年にしたいし、あまり歌ってこなかったシャンソンにも挑戦したい。目標は50周年を迎えること。そこまで頑張れたら最高だろうなって。だから、これからの10年は大変だと思うんです。まずは健康。自宅にいる時は3階までの階段を15往復して、500ミリのペットボトルを使っての筋トレは欠かしません。最近はお酒もほとんど飲まない。つまんない人間になっちゃったって自分でも思うんです(笑い)。でも長く歌っていたいから」
今の思いを漢字1文字にすると「幸」だという。
「好きな歌の道を歩むことができて本当に幸せ。これで何かを言ったらバチが当たると思います。体は少しずつガタがきていますけど、大きな病気をしているわけではない。声帯が強くないから、ケアはしっかりしています。休日はほとんどしゃべらないし、コンサートで歌った後は、話さないようにしています。飲んだり騒いだりっていうのもほとんどしない。あらっ、本当につまんないわ(笑い)」
気さくな人柄で人情家。サービス精神旺盛で周囲への気配りを欠かさない。そんな坂本を誰よりも応援していた父正夫さんが55歳の若さで亡くなったのが97年9月29日。28年がたった。
「このインタビューが紙面になるのはお父ちゃんの命日なんですね。すごく喜んでいると思います。新聞をお供えしなくちゃ」
天国で見守る父、そして何よりファンのために、これからも“1曲入魂”で歌い続ける。
◆坂本冬美(さかもと・ふゆみ)本名同じ。1967年(昭42)3月30日、和歌山県生まれ。中高時代はソフトボール部で捕手。86年に猪俣公章氏の内弟子となり、87年に「あばれ太鼓」でデビュー。「祝い酒」「夜桜お七」「また君に恋してる」などヒット曲多数。91年と2011年に日本レコード大賞最優秀歌唱賞。NHK紅白歌合戦に36回出場。新曲「浪花魂」がヒット中。血液型O。
■厳選12曲
・ビルボード公演の商品
◆CD「Fuyumi Sakamoto Special Live~想いびと~」 1月の東京、6月の大阪の両ステージからベストパフォーマンス12曲を厳選。10月8日発売。
◆Blu-rayとDVD「Fuyumi Sakamoto Special Live~想いびと~“MOVIE”」 東京公演のライブ映像と特別インタビュー。11月26日発売。
▼収録楽曲(予定) <1>また君に恋してる<2>ひまわりの約束<3>恋の予感<4>月<5>千の風になって<6>身も心も<7>Oh!クラウディア<8>心 はなれて<9>花瓶の花<10>サクラ、散ル…<11>夜桜お七<12>ほろ酔い満月
■一路真輝、中村梅雀らも
◆大阪・新歌舞伎座「坂本冬美特別公演」 第1部の芝居「弁天お春騒動記」では貧しい人たちの支援を行う「瓦版屋のお春」を演じる。2部の歌謡ステージではヒット曲の歌唱のほかに共演者とのコラボも。一路真輝、中村梅雀、相島一之、竹内将人、夢咲ねね、佐戸井けん太らが出演。10月10~31日。



