NHK大河ドラマ「黄金の日日」や映画「異人たちとの夏」などテレビや映画の脚本を多数手掛けた脚本家の市川森一(いちかわ・しんいち)さんが10日午前4時43分、肺がんのため東京都内で死去した。70歳。先月、自作の長編小説「蝶々さん」がNHKでドラマ化され、創作への意欲は衰えていなかった。

 市川さんは、11月11日に「蝶々さん」の試写会と会見に出席していた。「この年になると、1本1本が遺作のようなつもりで、作品によっては、これが遺作じゃ嫌だなと思うものもありますが、今日(試写を)拝見し、こういう作品が生涯の遺作になれば幸運だなと思ったりしました」と語っていた。

 同作のプロデューサーには、会見4、5日前に体調を崩していると話したというが、風邪をこじらせたという内容だったという。少しやせた印象もあったが、健康状態が悪化しているようには見えず「蝶々さん」続編を見たいと、意欲的に語っていた。

 市川さんは、日大芸術学部卒業後、特撮番組でデビュー。「ウルトラマン」シリーズを手掛け、「仮面ライダー」も企画に携わった。「仮面ライダー」のオープニングナレーション「本郷猛は改造人間である。人間の自由のためにショッカーと戦うのだ」は、市川さんが書いた。

 大河ドラマは「黄金の日日」「山河燃ゆ」「花の乱」と3作手掛け、華々しいキャリアを築いた。一方で、脱ホームドラマ、脱リアリズムを掲げるなど、アウトサイダーを自任していた。予定調和のハッピーエンドを嫌い「太陽にほえろ!」「傷だらけの天使」など、後のドラマに大きな影響を与える作品を発表。映画でも、脚本家山田太一さん原作の「異人たちとの夏」や「長崎ぶらぶら節」など話題作を手掛けた。また、40台後半になってワイドショーの司会を務め、幅広いジャンルで活躍した。

 次世代を思い続けてきた人でもあった。日本放送作家協会会長として、シナリオの保存や管理に尽力。「テレビ界が目先の視聴率だけに目を奪われていると、日本の優秀な作家の海外への流出も起きかねない」と懸念を示したこともあった。テレビ界は大きな人物を失った。