86歳現役シスターで岡山市のノートルダム清心学園理事長の渡辺和子さんの著書「置かれた場所で咲きなさい」(幻冬舎)が100万部を突破した。発売した昨年4月から徐々に売れ行きを伸ばし、年明けに95万部に到達。渡辺さんの誕生日を迎えた今月11日に32度目の増刷が決まり、大台に達した。知人に手渡したい1冊としてバレンタインギフトとしても注目されている。

 36歳にしてノートルダム清心女子大学長となった渡辺さんの人生や日々の生活、学生との触れ合いなどをつづった「自分自身」「明日」「老い」「愛する」の4章で構成。40項目に分けた各文末に、要素をコンパクトな見出しにしてまとめている。9歳の時に2・26事件で日本陸軍中将だった父を目の前で亡くし、自身は数年前に膠原(こうげん)病のため身長が14センチ縮む闘病を経験。激動の人生にもかかわらず、すべてを淡々と記すことで見出しの印象を深くしている。

 発売直後は目立った売れ行きはなかったが、次第に東京の恵比寿や自由が丘で若い女性が手にするようになった。「現在の自分の居場所」を意味する「置かれた場所」で、人に優しさを与える言葉や笑顔が、自分を励ましていく様子は、東日本大震災の被災者にも共感を得た。幅広い年代から寄せられた読者カードは3000通を超えた。設立20周年で17作目のミリオンセラーとなった幻冬舎としても異例の反響という。渡辺さんは「不安だったり、落ち込んでいたり、心にストレスを抱えている方々がこんなに多いということを実感しました」と話している。

 ◆渡辺和子(わたなべ・かずこ)1927年(昭2)2月11日、北海道旭川市生まれ。54年上智大大学院修了、56年にノートルダム修道女会入り。64年にノートルダム清心女子大学長就任、90年に同学園理事長就任。マザー・テレサ来日の際には通訳を務めるなど親交が深かった。殺到する取材を断ってきたが、今日14日放送のNHK「ゆうどきネットワーク」(午後4時50分)の特集に登場する。<シスターの教え>

 ▼「どんなところに置かれても花を咲かせる心を持ち続けよう」

 境遇を選ぶことはできないが、生き方を選ぶことはできる。「現在」というかけがえない時間を精いっぱい生きよう。

 ▼「子どもは親や教師の『いう通り』にはならないが、『する通り』にはなる」

 子どもに何か伝えるのに言葉はいらない。ただ誠実に努力して生きていくだけでいい。

 ▼「『老い』を意識する時、人はより柔和で謙虚になることができる」

 老いを嘆くのではなく、それを受け入れ「老いは神のたまもの」と意識できる自分を目指そう。

 ▼「あいさつは『あなたは大切な人』と伝える最良の手段」

 目立たない人へのあいさつを忘れてはいけない。私たちはおたがいに「おかげさま」で生きているのだから。