5月3日、テレビ番組では改憲の動きにふれ、その数日前には朝日新聞阪神支局襲撃事件について新聞の取材を受けた。

3日は小尻知博記者(当時29)が目出し帽の男に射殺され、朝日を「反日」とする犯行声明文が届いた事件から35年。私は取材に、この間、言論封殺の姿は大きく変貌したと指摘させてもらった。

朝日が数々のスクープを放った安倍政権の森友・加計疑惑では、役人をどう喝。自殺者が出ても証拠の書類を改ざんさせて事実を隠蔽(いんぺい)してしまった。後を継いだ菅政権は公安警察出身の官僚を使って6人の学者を学術会議から追い出し、意に沿わぬ学者から学究の場まで奪い取ってしまった。

権力は一滴の血を流すこともなく、表現・言論の自由を封殺してしまったのだ。

だが実態は悪寒が走るところまで突き進んでいる。朝日新聞は先日、すでに退社を申し出ていた中堅記者に、あえて停職1カ月の処分を下した。記者は「週刊ダイヤモンド」が安倍元首相に核保有などについてインタビューした件で「安倍氏が内容を心配している。私が安倍氏の全ての顧問を引き受けている」などと言って強硬に記事のゲラ刷りを見せるよう迫ったという。

もちろん、ハネ上がった一記者のとっぴな所業ではあるだろうが、かつて言論封殺の危機にさらされた朝日に所属する記者が、瞬時であろうと圧力をかける側に立ってしまったことが残念でならない。

事件から35年の日を前に、朝日は社説で〈日本を言論の暗黒時代に戻すわけにはいかない〉と書いた。5月3日は朝日の記者のみならず、メディアに関わるすべての人が改めてこの言をかみしめる日でありたいと願っている。