飛ぶ鳥を落とす勢いで業績を拡大しているワークマン。フランチャイズ店舗が9割を占めますが、「売り上げを伸ばすことを優先せず、フランチャイズ加盟店に無理をさせないためにはどうすればいいかをつねに考えている」と土屋哲雄専務は言います。

ワークマンの取り組みについて、新著『ホワイトフランチャイズ』を上梓した土屋氏が解説します。

ワークマンのフランチャイズの強みを解説します(写真:東洋経済)
ワークマンのフランチャイズの強みを解説します(写真:東洋経済)

■年間定休日は22日、正月休みやお盆休みがある

ワークマンでは伝統的に「加盟店に儲けてもらってこそ会社の利益になる」というスタンスを貫いている。

フランチャイズとしてホワイトなのかブラックなのかを分けるポイントとしては、まず働き方の面が問われる。

最近はコンビニなどでも時短営業の取り組みが始まっている。それでもコンビニの基本は24時間営業だ。元日休業などが実験段階にあるといっても無休が当たり前になっている。

他業種との比較によって話を進めたいわけではないが、ワークマンの営業時間は7時から20時で、年間店休日は22日とっている(年間22日というのは本部指定の店休日で、店長の判断などでそれより店休日を少なくしている店舗もある)。

そのため「えっ、正月休みがあるんですか?」「正月やお盆のほかにも店休日があるんですか?」と驚かれるケースも多い。月平均にしておよそ2日の店休日があるチェーンはあまりないはずだ。

開店が7時と早いのは、お客様のニーズに合わせた結果である。ワークマンは「職人の店」としてスタートしていて、そのスタンスは現在も変わらない。職人さんは道の渋滞を避けるためにも朝早く家を出て、作業する場所へ向かう途中で必要品を買うことが多い。そうした行動様式に合わせて、創業時は8時だった開店時間を7時に早めたのである。

ワークマンプラスのブームによって日中に来店する一般客は増えたものの、何年か前までは、朝のひと山を越えれば日中の店内は閑散とする場合が多かった。夕方以降、仕事帰りの職人さんが再び店に寄ることも多くなるので閉店は20時としている。

開店前、閉店後にしなければならない作業は5分程度なので、開店直前に店にやってきて、店を閉めたらすぐに帰宅することもできる。

・レジ精算はお昼に済ませておくルールにしている

・商品は夜間に配送されるのでお客様が少ない朝一番から品出しができる

・独自の自動発注システムを開発していることで発注業務の負担を軽減できている

などというように店長が必要以上に長く店にいないで済む工夫を凝らしている。

朝7時に店を開けるために6時から店にやってきて、売り場をしっかり整理しようと考える必要はない。朝7時に来店するのは、何を買うかが最初から決まっている職人さんたちなので、目的の商品を買うことができれば、品出し作業で店内が多少ごたついていても苦情は出ない。店内をゆっくり見たいと考える一般客が来るのは10時ごろからなので、それまでに店内の整理ができていればいい。


■加盟店の店長にはがんばりすぎないでほしい

本部としては、加盟店の店長にはがんばりすぎないでほしいと思っている。閉店後、何時に帰っているかは防犯システムでも確認できるので、遅くまで残りがちな店長がいるのがわかれば、「早く帰るようにしてください」とお願いすることもある。遅いといっても21時や22時などということではない。20時半でも遅い。20時に店を閉めたなら20時5分や20時10分には帰ってほしい。それができる体制を敷いている。

本部指定の店休日にも店を開ける店長は少なくないが、本部としてはできるだけ休んでほしいと望んでいる。あまり無理をして体を壊しては元も子もないので、ほどほどの働き方でいてもらうのがいいからだ。

自分の親が働き詰めでいて、休みを取らずにいれば、子どもはいい印象をもちにくいので、そうなることも避けたい。

スーパーバイザー(SV)歴も長かった営業本部長の平野貴行は、新しく店長になった人たちにはできるだけ休みを取るようにと勧めているそうだ。

「店舗運営は意外と体力を使いますので、『店休日はしっかり休んでください』と話をしています。それでもなかなか休みを取りたがらない方に対しては、『店休日を利用してワークマン以外の店舗を見て回るといいですよ』と話すこともあります。自分の店しか見ないでいると、どうしても視野が狭くなるからです。いろんなお店を見て回れば新しい発見がありますし、いい気分転換になります。

また『同じ店でもワンシーズンに三度見に行くといいですよ』と話すときもあります。シーズンの初め、ピーク時、晩期に行くと、どんな商品が売れていて、売れていない商品にどういう対策を打っているのかがよくわかるので、お勧めしてるんです。長く続けていただくためにも休みを取るのは大事なことですので、いつもこういう話をしています」

ワークマンでは自動発注システムの開発にも力を入れている。これまで店舗では、どの商品をどのくらい仕入れるかに頭を悩まし、店長たちがかなりの時間を割いてきていた。しかし、このシステムを使えば、一括発注ボタンを押すだけで店舗に必要な商品が必要なだけ納品される。

店舗ごと、商品ごとに、直近の月販から需要を予測して、理想の在庫量を計算して店舗への納品数を決める仕組みとなっている。

直近の販売動向にもとづいて、システムが自動的に適正在庫を維持させるので、店長の仕事量を減らすだけでなく、売り上げ向上にもつながる。事実、このシステムを導入すると、店舗の売り上げは未導入店より4~5%増えるというエビデンスも出ている。4~5%というのは大きな数字だ。売り上げ1億円の店なら500万円になる。

だが、このシステムはまだ全店導入はしていない。地域などによっても売れ筋の商品が変わることがあるので、システムを導入した店舗としていない店舗を比較しながら、さらに精度を高めようとしているからだ。


■開発に8年かけていてもまだ全店導入していない

最初に開発された段階でも効果の大きさは確認できていたが、現在は第3次開発に進んでいる。ここまで開発には8年ほどの時間をかけていて、かなりの水準のシステムになっている。それでいながらまだ全店導入していないというのも通常の会社では考えにくいのではないだろうか。それをやるのがワークマンである。

どうして妥協しないのかといえば、加盟店にとって確実に役立つものにしたいからだ。これまで店長たちは仕入れのために2時間といったレベルの時間をかけている場合が多かった。この2時間をなんとしてでもなくしたかった。そのうえでいかに売り上げを高めるかを考えている。店長たちには「働く時間を短くしたうえで稼いでほしい」。その実現のためにこの開発を続けているのだ。

自動発注システムについては第3次開発で完成形にできるのではないかという手応えがつかめているが、完成までの期限は設定していない。期限があればできないことでも、期限がなければ実現できる。

きれいごとに聞こえるかもしれないし、すべてをきれいごとで進めようとしても、うまくいくものではないにはちがいない。それでもやはり、きれいごとこそ、やっていかなければならないと私は信じている。

加盟店と共存共栄していくためにもいっさいの妥協はしない。

現社長の小濱英之(2019年4月1日に代表取締役社長に就任)も「加盟店の困っているところを探す」ということを大事にしている人であり、そういう姿勢がワークマンという会社の中にはDNAとして受け継がれている。

社内の誰もが“加盟店にとってのマイナスをなくして、プラスにするためにはどうすればいいか”という部分に目を向けているのである。

以前は会社にとって大切だったのはブランド価値だったが、現在はレピュテーション(評判)になっているのではないかと思う。ステークホルダー(企業の利害関係者)のあいだでどのような認知をされているのか? その評価、評判が、100年の競争優位を築いていくうえでも大きな意味をもってくる。

もちろん、評価を気にして加盟店ファーストの姿勢をとっているわけではない。受け継がれている姿勢が結果的にレピュテーションを高めることにもなっているのだ。

ブームの影響もあり、現在はフランチャイズの問い合わせはかなり増えている。その意味でいえば狭き門になっている面もある。ただし、応募フォームに寄せられる問い合わせや履歴書の段階でお断りせざるをえない人が多いのも事実といえる。


■要件に合っていない応募者も少なくない

加盟に必要な要件としては、主だったところで次の項目を挙げている。

・法人名義での契約はできず、契約は1店舗に限られる

・ご夫婦での参加が基本(3親等以内の親族でも可能な場合がある)

・50歳未満(本人、パートナーともに)

・健康状態が良好

・通勤30分圏内の方(高速道路を使わず)

これらの要件に合っていない応募者も少なくないのが現実だ。「自分でも会社を経営しているので、事業の一環としてワークマンをやりたい」と言ってくる人などもいる。

基本の要件に反しているので、最初からお断りしている。

また、いきなりに近い感じで「人材が足りないんだろうから俺がやってやる」などという言い方をしてくる人もいる。こうした話し方しかできない人に店舗をお願いすることはありえない。

履歴書などに問題がなければ担当者が面談して、考え方などを聞かせてもらう。この部分には十分な時間をかけて審査している。

稼ぐ能力が高いかどうかよりも重要なことがある。SVや本部と良好な関係で続けられ、お客様に対しても親切であること。求めているのは“ワークマンが好きで、本気でやりたい“と考えてくれている人たちだ。

ワークマンでは、店長にはできるだけ“店の顔”になってもらうように要請している。そのように望んでいるのは、チェーン店としてはワークマンならではのことかもしれない。お客様からなんでも気軽に質問してもらえるような心の交流を大切にしてほしいと考えているからだ。

私が店舗を見て回っているなかでは、職人のお客様から「あれ、来た?」と聞かれて、「来たよー!」と返している店長を見たこともある。お客様へのタメ口は禁じているが、一概にとがめるのも難しいところだ。

このお客様は駐車場から声をかけていたのに、レジ傍にいた店長は声だけで相手が誰だかわかったようだった。朝一番で「あれ、来た?」と聞かれて「来たよー!」と即答できたのは、注文を受けていた商品が届いているかの確認をいち早く済ませていたからだろう。

こうした関係が築けていたなら、お客様の側でも敬語を使われることはおそらく望まないはずだ。タメ口になっていることの是非を問わなければ、最高のサービスといえる。

一見のお客様がいた場合、「常連中心の店なのか」という疎外感を与えないように注意すべきだが、お客様の信頼を厚くして、いろいろなかたちで頼ってもらえるようになってこその“店の顔”だ。

このお客様などは注文した商品がまだ届いていないのなら、店に入らずそのまま仕事に行こうと考えていたと想像される。こうした気軽さを持ち込めるようにしているのは信頼と親しみがあってこそのことだといえる。

この店長はどのお客様からも信頼されているようで、地域でナンバーワンの売り上げを記録するようになっている。


■夫婦で協力すれば2人そろって店にいる必要がない

「ご夫婦での参加」を基本にしていることにも意味はある。

夫婦で協力していけば、2人そろって開店から閉店まで店にいる必要はなくなる。夫婦が入れ替わりで店にいるようにしている店舗は実際に多い。

そのため「保育園に子どもを迎えにいくのがどこの家よりも早くできている」といった声も聞かれている。

また、夫婦で経営していればお客様にとってもなじみやすく、「店長いる?」「今日は奥さん、いないの?」といったコミュニケーションが生まれやすい。ワークマンとして求めているのはそうした店舗運営である。

店長夫婦には店の顔になってもらう必要があるため、人任せすぎる経営はタブーになるが、店長が休んで、スタッフだけで店舗運営する時間帯や曜日があるのはまったくかまわない。むしろそうしてもらうことを本部の側では望んでいる。

どのくらいの人数のスタッフにどの程度の時間、働いてもらうかは、人件費を考えた店長の裁量にゆだねられる。

ワークマンではロイヤルティーを一定比率にしているなど、必要となるお金や分配金の仕組みはわかりやすいものにしている。フランチャイズによっては、売り上げに応じてロイヤルティーが変動する契約になっている場合も少なくない。売り上げが増えるほどロイヤルティーも高額にしていくやり方などはワークマンの考え方とは真逆のものだといえる。

【土屋 哲雄 : ワークマン専務】