日本で「ロードスター」といえば、往々にしてマツダ「ロードスター」のことを言うが、“オープンスポーツカー”という意味においてのロードスターは、世界に数多く存在する。メルセデス・ベンツ「SL」もその1つだ。

このSLの新型モデルが、2022年10月24日に日本国内で発売となった。


プロポーションも新しくなった7代目「SL」(写真:Mercedes-Benz)
プロポーションも新しくなった7代目「SL」(写真:Mercedes-Benz)

SLの名を持つモデルとしては、通算7代目。コードネーム「R232」となったこのモデルは、メルセデスAMGによる完全自社開発となり、「メルセデス・ベンツSL」ではなく、「メルセデスAMG SL」と呼ばれることとなった。

導入第1弾として今回、発表されたのは、1648万円の「メルセデス AMG SL 43」である。

“ベンツのSL”と聞くと、ある人は『カーグラフィック』創刊号の表紙を飾った、1952年代に発表され、世界のモータースポーツシーンを席巻した初代モデル、「300SL(W198)」を思い浮かべるかもしれない。また、ある人は、バブル時代に一世を風靡(ふうび)した4代目の「500SL(R129)」を思い浮かべるだろう。

SLの名は「Super」と「Light(軽量)」の略称で、初代モデルから一貫して、軽量なスポーツモデルであり続けてきた。初代こそガルウイングボディーを持って生まれてきたが、1957年に途中でオープンモデルのロードスターが誕生して以降、7代目となる最新モデルまでオープンボディーを基本としている。


■■2+2とソフトトップに

新型SLは、設計がメルセデスAMGとなっただけでなく、2001年登場の5代目(R230)から続いてきた「2シーター・バリオルーフ(電動リトラクタブルハードトップ)」から、「2+2シーター・ソフトトップ(幌)」となったことも大きな変化の1つだ。


国内発表された「メルセデス AMG SL 43」(写真:メルセデス・ベンツ日本)
国内発表された「メルセデス AMG SL 43」(写真:メルセデス・ベンツ日本)

ソフトトップ化により21kgの軽量化と低重心化が実現でき、「ドライビングダイナミクスやハンドリングにプラスの効果が生まれた」という。

エクステリアデザインは、近年のメルセデス・ベンツのデザイン基本思想であるセンシュアルピュリティー(=官能的純粋)に、AMG のスポーティーな要素を取り入れたもの。ボンネットのパワードームなどは、 SL の長い伝統を受け継ぐ特徴的な要素だ。

全長4700×全幅1915×全高1370mmのボディーサイズは、先代のR231より若干大きくなったが、長いホイールベースと短いオーバーハングによりサイズよりも小さく見える。

ソフトトップになったことも、軽快さを感じさせる一因だろう。大きなメタルトップを格納する必要がなくなり、リアまわりがスリムになったことも効いている。ドアハンドルは、現行「S」クラスより採用された格納式となった。

インテリアは、「初代300SLロードスターに始まる伝統を現代によみがえらせたもの」だという。センターコンソールで存在感を放つ大きなタッチスクリーンこそ現代的だが、奥行きが短い水平なダッシュボードに、小さなメーターパネルが組み合わされたデザインは、たしかに300SLに似ている。


伝統を現代によみがえらせたというインテリア(写真:Mercedes-Benz)
伝統を現代によみがえらせたというインテリア(写真:Mercedes-Benz)

初代「300SL」のインテリア(写真:Mercedes-Benz)
初代「300SL」のインテリア(写真:Mercedes-Benz)

SLにリアシートが設置されたのは、4代目のR129以来。ただし、4シーターではなく「2+2シートレイアウト」と表現されるようにそのスペースはミニマムで、着座できる乗員の身長は 150cm (チャイルドセーフティーシート装着時 135cm )までとなっている。


■■流用なき完全新設計

メルセデスAMGによる新作のアーキテクチャー(プラットフォーム)は、ロードスター専用設計で、自立構造を持つアルミニウム製スペースフレームとなった。

プレスリリースの中に、あえて「先代 SL はもちろん、AMG GTロードスターなど他のモデルから流用されたものはありません」と書かれているところに、この新作アーキテクチャーへの自信がうかがえる。

また、ボディーシェルにはアルミニウム、スチール、マグネシウムの繊維複合材、ウインドスクリーンフレームには中空の熱間成形高張力スチールを採用されているという。


7代目「SL」のボディー構造(写真:Mercedes-Benz)
7代目「SL」のボディー構造(写真:Mercedes-Benz)

SL43に搭載されるパワートレインは、電動化とダウンサイジング化が進んだ「M139」と呼ばれるもの。エンジンは2.0リッターの直列 4 気筒で、AMGの「One man, One engine」主義に従い、熟練のマイスターが手作業で丹念に組み上げる。4気筒エンジンでは初だ。

もう1つのハイライトは、量産車では世界初となるエレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャーが組み合わされること。これはF1由来のターボ技術で、排気側のタービンホイールと吸気側のコンプレッサーホイールの間に、電気モーターを追加したものだ。

タービンを電動駆動することで、アイドリングから全エンジン回転域でレスポンスを改善するだけでなく、アクセルを離したりブレーキを踏んだりしたときにもブースト圧を維持するため、レスポンスが途切れることなく得られるという。

また、48Vマイルドハイブリッドも採用されている。メルセデスのBSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)としては第2世代で、短時間の出力ブーストのほか、セーリングモードや回生ブレーキにより効率を最大限に高める役割を持つ。


M139搭載のパワートレイン(写真:メルセデス・ベンツ日本)
M139搭載のパワートレイン(写真:メルセデス・ベンツ日本)

トランスミッションは、トルクコンバーターを使わない9速の「AMG スピードシフト MCT」が採用された。湿式多板クラッチによる、ダイレクト感のある素早いシフトチェンジと高い伝達効率を実現するもので、これまで「63」にしか搭載されていなかったものだ。

こうしたテクノロジーにより、0-100km/h加速4.9 秒、最高速度275km/h を実現している。


■■ラグジュアリーロードスター新時代へ

サスペンションには、可変ダンピングシステムを搭載した高性能なアルミニウム製ダンパーと軽量コイルスプリングを搭載した新開発の「AMG RIDE CONTROLサスペンション」を標準装備。

前後アクスルに搭載されたすべてのサスペンションリンクとステアリングナックル、ハブキャリアを鍛造アルミニウム製とすることで、バネ下重量の低減を図る。サスペンション制御装置では、加速センサーやスピードセンサーのデータを解析し、各輪に対する減衰力を数ミリ秒で調整して状況に適合させるという。

もちろん、安全運転支援システムもメルセデスらしく万全で、緊急回避補助システムやアクティブブラインドスポットアシスト(降車時警告機能付)なども含め、ありとあらゆる機能が搭載されている。

「PRE-SAFE サウンド」は、システムが不可避の衝突を検知すると、車両のスピーカーから鼓膜の振動を抑制する音を発生させ、鼓膜の振動を内耳に伝えにくくすることによって、聴覚への影響を低減するシステムだ。


初代「300SL」ロードスターと並べて(写真:メルセデス・ベンツ日本)
初代「300SL」ロードスターと並べて(写真:メルセデス・ベンツ日本)

2022年は、1967年にAMGが誕生して55年、1952年に300SLが発表されて70年にあたる。この記念すべき年にAMGによる完全新設計で登場したSLは、そのテクノロジーも含めて、ラグジュアリーロードスターの新たな姿を示していたといえる。本国で発表済みの「SL55」や「SL63」の導入も待ち遠しい。

【木谷 宗義 : 自動車編集者/コンテンツディレクター】