福島県は「地域の除染やインフラの復興が進んでいる。もう避難する必要はない」とし、3月末で自主避難者の住宅支援を打ち切る。政府も認めている。空間線量こそ下がってきているものの、土壌汚染は深刻な数値を示す。

 自主避難者へは心ない批判もある。「都心にタダで住んでいる」。そんな声に鴨下さんの思いは複雑だ。「福島県では自立した生活をしていた。家も自分の力で持っていた。でも放射線物質で汚染され、いまだに回復していない。それに対する代わりの家、自動車事故で言うならば代車です。家の汚染がもとに戻っていないのに代車を取り上げる。あとは自分で好きにしてくださいという状況は、非常に乱暴な話です」

 鴨下さんの自宅周辺には住民が住んでいる。小学校に通う子どもいる。「なぜ、あなたは危険を私たちの知らせてくれなかったのか」。住み続ける近所の人の厳しい声も届く。

 自主避難は母子での避難が多い。番組では母の思いも伝える。福島市に住んでいた40代の市川美穂さん(仮名)は3人の子どもたちの被ばくリスクを減らすために、大阪府に自主避難した。離れて暮らした夫から避難の理解を得られず、一昨年に離婚した。避難先の県によっては無償提供を続ける県もあるが、大阪府は3月末で打ち切る。

 府営住宅に子ども3人と暮らす市川さんは「なんとかするしかない…。もう帰るところはない。ここ(大阪)でなんとかとどまれるようになんとかするしかない…」。その声は切実だ。

 復興政策を加速させようとする国、戻らない人の声を打ち消そうとする福島県…。津村健夫ディレクター(53)は「エックス線を撮影する部屋で子育てしなさい。そういう状況を強制できるのでしょうか」。

 決断が迫られる自主避難者の取材を重ねて見えてきたものがあった。津村ディレクターは「声を上げないでいたら認めることになってしまう。それはメディアも同じ。本来なら国や東京電力の責任のはずが、被害者の個人、個人の責任に転化されている。巧妙にすり替えられている」。同番組は自主避難者の「日常の生活」から問題点をあぶり出していく。