豊島は名人戦順位戦の最上位A級に在籍。A級は160人いる現役棋士の中でも羽生善治3冠ら、わずか11人。藤井にとっては公式戦で初のA級棋士との対戦だった。午前10時から始まった対局は同一局面を4回繰り返す「千日手」となり、午後から指し直し局がスタート。中学生プロは序盤から積極的に攻めたが、“正真正銘”のトップの指し回しは、あまりにも正確だった。

 将棋の8大タイトルで、藤井が17年度中に獲得の可能性があったタイトルは「棋王」だけだった。新設されたタイトルの叡王戦は勝ち進んでいるが、頂点を決める七番勝負は来年3月から5月にかけて行われる予定。棋王戦の敗退により、史上初の中学生タイトルホルダーの快挙は消滅した。

 「まだまだタイトルには実力不足です。1歩1歩、強くなっていきたいと思います」。夏休み最後の対局で学んだことは多い。プロになって初めての夏は1日平均7時間、読みの精度、形勢判断など将棋の研究に費やしてきた。次戦は9月2日、加古川青流戦で井出隼平四段(26)と対局する。トップ棋士から強くなるための「宿題」をもらった。残りわずかな夏休みも将棋に没頭する。【松浦隆司】

 ◆棋王戦 予選からの勝ち上がりは8人。これを待ち受ける本戦スタートの25人が加わり、計33人によるトーナメント戦で渡辺明棋王(竜王=33)への挑戦権を争う。タイトル戦は1日制で5番勝負。例年、年明けの2~3月に行われる。

 ◆千日手(せんにちて) 同じ局面が4回現れた時点で無勝負となり、その対局は勝敗に関係なくなる。休憩を挟んで先手、後手を入れ替えて指し直す。直近では5月22日、王位戦挑戦者決定リーグ戦の渡辺明竜王対菅井竜也七段、丸山忠久九段対佐々木勇気五段の2局で千日手指し直しとなっている。