ラグビーの街、岩手・釜石市に新たな復興のシンボルが誕生した。19年ラグビーワールドカップ(W杯)会場の釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアムが19日、オープン。約6500人のファンを集めて記念試合などイベントが行われた。1000人を超える死者、行方不明者を出した11年の東日本大震災から7年、復興への力強い決意と、支援の感謝を世界に向けて発信した。

 スタジアムの“こけら落とし”に集まった6500人のファンの中には、感極まって涙を見せる人もいた。釜石シーウェイブス(SW)の桜庭吉彦監督はヤマハ発動機との記念試合の後、言葉を詰まらせながら「いろいろな人の支えがあって、この日を迎えることができた」と話した。スタンドに「釜石」コールが響き、大漁旗がはためいた。

 スタジアムができたのは、海と山に囲まれた市内の鵜住居町。釜石東中と鵜住居小があった場所だ。大震災の津波で両校は水没。しかし、防災教育の徹底と素早い避難で全員が無事だった。500人以上の犠牲者を出した同町だけに、小中学生の無事は「釜石の奇跡」と呼ばれた。そんなドラマがあるからこそ、市民は跡地のスタジアムを「復興のシンボル」と位置づける。

 記念式典では日本ラグビー協会名誉会長で2020年東京オリンピック大会組織委員会の森喜朗会長を始め、文科相、復興相、東京オリパラ相がズラリ。W杯ラグビーと東京大会のマスコットの初のコラボも実現した。平原綾香とEXILEが中学生たちと歌い、踊った。「誰も思わなかったことができた。夢はかなう」と、野田武則釜石市長は喜んだ。

 現在6000人収容の観客席はW杯本番までに仮設1万が増える。鵜住居駅のある山田線の復旧、三陸沿岸道路の開通などでアクセスもよくなるという。本番の観客輸送、ホテルなど課題は山積で、W杯後の後利用も大きな問題も残る。それでも、復興に向けて大きな1歩になったことは間違いない。「これはキックオフ。本当の戦いは、これからです」と桜庭監督は厳しい表情で話した。【荻島弘一】