安倍政権を、12年前と似た「悪夢」が直撃した。賃金や労働時間の動向を把握する厚生労働省の「毎月勤労統計」に不適切な調査が判明、雇用保険などの給付金額が、本来より537億円以上少なくなっていることが11日、分かった。

厚労省は事態を把握した後も公表せず、隠蔽(いんぺい)の疑いも。国民のお金にかかわる問題で、第1次安倍政権の退陣につながった07年の「消えた年金」を思わせる「消えた給付金」。政権には大打撃だ。

厚労省は11日、「毎月勤労統計」のずさんな調査により、雇用保険の失業給付などが本来支払われるべき額より少なくなっている対象者が、のべ1973万人、総額537億5000万円以上になると発表した。

勤労統計調査のデータは、雇用保険や労災保険、船員保険の給付額算定のほか、内閣府の月例経済報告など政府の経済指標にも用いられる。重要なデータにも誤りが生じることで、国の調査の信頼性を根本から揺るがす事態を招いている。

過少支給の原因となった厚労省の調査は、04年に始まった。通常、従業員500人以上の事業所すべて調べるが、厚労省は誤りがあった東京都内の事業所分に関し、対象の約1464事業所のうち約3分の1の491事業所しか調べていなかった。比較的賃金が高い都内の大企業が調査対象から外れ、集計後の平均給与額が実際より低くなった。

厚労省が、抽出した事業所のデータを本来の全数調査に近づける「補正処理」を始めたのは18年1月分から。今回の問題は先月、総務省の指摘で発覚したが、厚労省側はそれ以前から不適切さを認識しながらも公表せず、組織的隠蔽の疑いも出ている。

根本匠厚労相は会見で、「現段階では(隠蔽は)ないと考えている」と述べ、自身の責任論には触れなかった。厚労省は昨年も働き方改革法案で労働時間調査の数字に誤りが続発。中央省庁の障害者雇用水増し問題も起きている。

厚労省は今後、過少支給の対象者全員に不足分を追加支給するが、この財源確保で、昨年末に閣議決定したばかりの19年度予算案も修正する。1度決めた予算案の見直しは、極めて異例だ。菅義偉官房長官は会見で今回の問題を謝罪し、政府の基幹統計全体を点検する意向も明らかにした。

12年前の07年、「消えた年金」問題が直撃し、参院選惨敗を経て第1次安倍政権は退陣した。今回も、国民が受け取るお金に絡む問題。「年金」ならぬ「消えた給付金」問題が、「亥(い)年」に再び、安倍政権を揺るがしている。