「右翼」と聞けば、日の丸を掲げ、黒塗りの街宣車が大音響で軍歌を流すイメージを描く人が多い。自らを「ガチウヨ」と呼び、日の丸も、軍歌を流す街宣車もなく、対話をモットーにする「右翼」がいる。

鋭い視点で斬り込むMBSテレビのドキュメンタリーシリーズ「映像’19」。今回は「ガチウヨ~主権は誰の手にあるのか~」と題したドキュメンタリーを22日深夜0時50分(関西ローカル)から放送する。千葉県柏市に拠点を置く愛国団体「花瑛塾」。番組は女性塾長の仲村之菊(なかむら・みどり)さん(40)の素顔に迫った。そこから見えてきたのは日本のいまだった。

花瑛塾がある柏市の仲村さんの自宅には、天照大神を祀(まつ)る神棚が飾られている。塾の1日は祓詞(はらえことば)を唱えることから始まる。仲村さんは注文を受けてから家具などを作る木工大工。18歳のとき「慣習や常識に縛られた世間が嫌になったから」と大手の右翼団体に飛び込んだ。10代で2人の子どもを出産。シングルマザーで活動を続けてきた。

今年5月、「花瑛塾」の塾長になった。塾生は約30人、平均年齢は22歳。「花瑛塾」の顧問を務めるのは木川智さん(36)。大手の右翼団体で全国を飛び回っていた仲村さんは、16年、沖縄の新基地反対運動にかかわった。この運動で上層部の方針と食い違うようになった。所属団体が安倍政権を支持する活動を展開するのに疑問を抱くようになり、運動家としての個人の意志を貫いたため、木川さんとともに除名された。16年、花瑛塾を誕生させた。 仲村さんは「この20年間、周りが変わっていった。いままで街宣車をガンガンやっていた人たちは、弱い者に対してすごくやさしかった。いまはそうじゃない。弱い立場、自分よりも明らかに弱い立場の人に罵声を浴びせたりする。変化していった。私はそれをやりたくない。私は私を貫いただけです」と話す。

「花瑛塾」は歴史の中で培われてきた日本古来の文化や思想を重んじ、「アジアとの連帯」を掲げ、自主独立の立場から米軍基地問題にもこだわる。

仲村さんは3年間で20回近く、沖縄に通っている。戦争の記憶を継承するためでもある。沖縄の米軍基地のゲート前にも立つ。「米国の正義を疑え!」。背中にそうプリントされたTシャツを着て、街宣活動する。

仲村さんはヘイトスピーチをする「ネトウヨ(ネット右翼)」から攻撃を受けたこともある。いま仲村らが時代に感じる違和感がある。

「右傾化でも左傾化でもなく、みんなが自分を見失っている。自分の本質がない。左翼も右翼も知性の劣化。ネットで抽象的にヘイトしたりする。あまり考えずに、あれは左翼だとか言っていれば、なんとなくまとまっていることができる。居場所がある」

そして2人は「好戦的な言葉がファッションのように消費されている社会」と指摘する。

塾生の1人、21歳のヒロキは、「のんちゃん」というネームの仲村さんのツイッターにからんできた「ネトウヨ」だったという。仲村さんはヒロキとの対話を通して「あなたのやっていることはかっこ悪いんだ」。番組では、なぜヒロキが塾生になったのかも、明らかにしていく。

MBS報道局番組部の斉加尚代ディレクター(54)は「右翼という固定観念にとらわれずにみていただければ」と話し、「右、左の対立とかがあおられている世の中ですが、そもそも私たちが右、左とかの思想を理解していないのでは。本来は対立しないでいいのに対立があおられているのかもしれない。いま問題となっている排他的、差別的な言動について、右翼の側も『おかしい』と声を上げている」。

なぜ「ガチウヨ」の仲村さんが声を上げるのか。日本の「いま」が見えてくる。