松尾邦弘元検事総長(77)ら検察OBが15日、法務省に対し、検察官の定年延長を可能とする検察庁法改正案に反対する意見書を提出した。その意見書の中で、安倍晋三首相(65)の国会での答弁を、フランスの絶対王政を確立したルイ14世が発言したとされる、「朕(ちん)は国家である」という言葉になぞらえ、「中世の亡霊のよう」と批判した件があった。

意見書の1ページ目にある第1項の冒頭には、黒川弘務東京高検検事長が2月8日に定年の63歳に達し、退官の予定だったが、その直前の1月31日に、定年を8月7日まで半年間延長する閣議決定が行われ、同氏が定年を過ぎた現在も現職にとどまっているという事実関係が記されている。

そして2ページ目の第3項には「本年2月13日衆議院本会議で、安倍総理大臣は『検察官にも国家公務員法の適用があると従来の解釈を変更することにした』旨述べた」と事実関係を紹介。その上で「これは、本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更したという宣言であって」と続けた。

そして、安倍首相の答弁について「フランスの絶対王政を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる『朕は国家である』との中世の亡霊のような言葉を彷彿(ほうふつ)とさせるような姿勢であり、近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない危険性を含んでいる」と批判した。

さらに「時代背景は異なるが」と、ただし書きを付けた上で、17世紀の政治思想家ジョン・ロックが著書「統治二論」で書いた「法が終わるところ、暴政が始まる」という言葉を紹介し「警告している。心すべき言葉である」とつづった。

意見書は、森雅子法相宛てに書かれた。意見書を取りまとめた、元最高検察庁検事の清水勇男氏(85)は、保坂和人法務省大臣官房審議官に渡したと説明し「国会で大臣はいないけれども、戻り次第、きちんとお渡しするという確約を得た」と語った。【村上幸将】