1980年(昭55)4月21日の早朝だった。宮崎県延岡市の西階運動公園を散歩していた青年が、トイレ近くの木の下でカマ首をもたげ、今にも襲いかからんばかりのコブラを発見。すぐに地元の延岡署に通報した。

同公園では移動動物園「世界動物祭」を開催中だった。駆けつけた署員が主催者に話を聞いたところ、コブラ2匹に加えてニシキヘビとマングースまで脱走していることが判明した。特にコブラは人を殺傷する猛毒を持っていることから大騒ぎになり、全国的なニュースになった。

延岡市は同日午後に「コブラ対策本部」を設置。動物園の半径200メートルを立ち入り禁止にして、警察、消防、市職員らによる大捜索が始まった。

ニシキヘビやマングースはその日のうちに捕獲された。夕方になって「逃げたコブラは1匹だった」と訂正され、翌22日午前にその1匹も無事に捕獲された。不安が広がっていた市民に「一件落着」を告げる広報車が市内を巡回した。ところが、同日夕方、蛇小屋からさらに2匹のコブラが逃げ出していることが判明。その後、さらにもう1匹いなくなっていることが分かった。

翌23日に脱走コブラは「4匹だった」と警察から発表されると、そのずさんな管理に市民から批判が集中した。1匹は22日に捕獲済み。24日午後にさらに1匹を捕獲して、残り2匹となったが、これがなかなか見つからず、全国からは虫類の専門家が駆けつけて捕獲作戦が繰り広げられた。

市民も含めて大勢による血まなこの捜索は長丁場に及んだが、結局、コブラは発見できず、脱走から2カ月後、「生きている可能性は少ない」との専門家の見解などをもとに、公園内の野球場や陸上競技場などの使用が許可された。その後も対策本部は継続して警戒と捜索を続けていたが、コブラが日本の寒い冬を生きられないこと、抜け殻がないことなどを理由に、同年11月末に本部を解散した。

延岡市は翌年3月に主催者に捜索の人件費など総額1000万円あまりの損害賠償請求を起こして裁判で勝訴した。コブラは見つからず、長期にわたり延岡市民を不安に陥れたが、コブラにかまれる被害が出なかったのは不幸中の幸いだった。