映画「宮本から君へ」(真利子哲也監督)の製作会社スターサンズが、助成金交付内定後に下された不交付決定の行政処分の取り消しを求めて、文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)を訴えた裁判で、東京地裁は21日、不交付処分の取り消しを命じる判決を下した。

東京地裁は「芸術団体等の自主性等を重んじる観点から、裁量権の範囲の逸脱またはその乱用にあたり違法である」とし、原告の主張が全面的に認められた。

映画は19年3月12日に本編が完成したが、同日に出演者のピエール瀧がコカインを使用したとして麻薬取締法違反容疑で逮捕された。製作側には、同29日に芸文振から助成金(1000万円)交付内定の通知が送られていたが、同4月24日の試写後、芸文振関係者から瀧の出演シーンの編集ないし再撮の予定を問われ、製作側はその意思がないと返答。19年6月18日に、瀧が懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡されると、同28日に芸文振から不交付決定が口答で伝えられ、同7月10日付で「公益性の観点から適当ではないため」との理由で不交付決定通知書が送られた。

原告側は、20年2月25日の第1回口頭弁論から一貫して「公益性の観点から適当ではないため」との理由による芸文振の不交付決定を、行政裁量の逸脱、乱用だと主張。また被告が、映画を作る権利自体を制限する処分(規制行政)ではなく、映画が19年9月27日に公開できたという事実をもって処分と憲法上の問題が無関係だと主張していることに対して「かかる発想は、もはや時代遅れの憲法論というほかありません」と批判。1月の第3回口頭弁論で結審していた。

映画の製作会社スターサンズの河村光庸代表は会見を開き「公益性を害するという、極めて曖昧な主張。公益性が何かというのが、私にとっての最大の問題だろうと思った。私は最後まで裁判において聞きたかったのは、文化芸術に対する公益性は何か、明確に答えてもらいたかった。最後まで答えずに、判決に至った」と思いを語った。その上で「大変うれしく…人生で、こういう、うれいしことはないと思いつつ、言葉によってうやむやにし、遠ざけ、無力化する社会の中で、文化芸術の表現でどうしていったらいいか、この判決で解決はなかった」とも語った。

「宮本から君へ」は、90年に漫画誌「モーニング」で連載された新井英樹氏の漫画が原作。文具メーカー「マルキタ」の営業マン宮本浩の愚直なまでの生き様を描き、池松壮亮主演で18年にテレビ東京系で連続ドラマ化(全12話)されたのを経て映画化された。劇中で、瀧は宮本の前に立ちはだかる真淵拓馬(一ノ瀬ワタル)の父、敬三を演じているが、出演シーンは本編129分中11分で、出演率は9%に満たない。