文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)が、映画「宮本から君へ」(真利子哲也監督)の製作会社スターサンズが助成金交付内定後に下された不交付決定の行政処分の取り消しを求めた裁判で不交付決定処分の取り消しを命じる判決を下した東京地裁判決を不服とした、第1回控訴審が26日、東京高裁で開かれた。

映画は19年3月12日に本編が完成も、同日に出演者のピエール瀧(54)がコカインを使用したとして、麻薬取締法違反容疑で逮捕。製作側には、同29日に芸文振から助成金(1000万円)交付内定の通知が送られたが、同4月24日の試写後、芸文振関係者から瀧の出演シーンの編集ないし再撮の予定を問われ、製作側はその意思がないと返答した。

同6月18日に瀧が懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡されると、制作側には同28日に芸文振から不交付決定が口答で伝えられ、同7月10日付で「公益性の観点から適当ではないため」との理由で不交付決定通知書が送られた。その後、芸文振は同9月に助成金の要項を改訂し、公益性の観点から内定の取り消しが出来るとした上、助成金の募集案内にもスタッフ、キャストが重大な刑事処分を受けた場合は不交付、不交付の可能性があるとの一文が記載された。

スターサンズ側は、20年2月25日の第1回口頭弁論から一貫して「公益性の観点から適当ではないため」との理由による芸文振の不交付決定を、行政裁量の逸脱、乱用だと主張。また芸文振が、映画を作る権利自体を制限する処分(規制行政)ではなく、映画が19年9月27日に公開できたという事実をもって処分と憲法上の問題が無関係だと主張していること、映画の交付時には1つもなかった追加の改定についてもスターサンズ側は疑問を呈し、重要な争点としていた。

被控訴人のスターサンズの代理人を務める弁護団は控訴審後、会見を開いた。その中で、四宮隆史弁護士は「何の根拠のないまま不交付になったら、数カ月後に交付要項が公益性の観点から取り消しと差し替えた。後出しじゃんけんのようなもの」と批判した。また控訴人の芸文振側が、控訴審で、助成金の交付要項について「内部の手続きを定めたもの、交付の内定は内部的な手続きに過ぎない」と主張していると説明。その上で「自己否定に当たるんではないかとビックリした部分。交付要項に基づく内定は無視して良い。最終的には理事長判断で決めるというもの」と首をかしげた。

この日、スターサンズ代表の河村光庸エグゼクティブプロデューサーは、体調不良のため控訴審、会見ともに欠席した。四宮弁護士は「向こうから控訴されたものの、河村さんは芸文振に、文化芸術の助成は何のために存在するのか、まで踏み込んで闘いたいと。あまりにも行政の広範な自由裁量が認められると、この先の芸術に大きな影響がある。何としても阻止したい」という、河村氏の思いを代弁した。その上で「小さな助成金の話だが、他に通じる問題が、たくさんある」と強調した。

控訴審の次回期日は12月23日に設定された。