9月7日に72歳で亡くなった社会風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」のリーダー渡部又兵衛(わたべ・またべえ)さん(本名・由光=よしみつ)の「お別れの会」が24日、都内で行われ、親交のある鈴木宗男参院議員(74)、タレントのデヴィ夫人(82)らファンを含む約250人が参列した。また、メンバーが扮(ふん)した“日米中から駆けつけた新旧首脳”があいさつするなど、笑いあり、涙ありで別れを惜しんだ。

司会者から「天国より安倍元総理大臣です」と紹介を受け、福本ヒデ(51)演じる安倍シンゾウ元首相がマイクの前に立った。「私の国葬は9月27日に無事に終わりました。身に余る光栄とともに、心から迷惑でした」。国葬開催への反対の声も多かったことに言及を開始した。「反対集会がどんどん開かれ、当日のデモに集まった人が1万5000人。私の献花に訪れた方は2万5000人。なんとか勝ってよかったなあと思いましたよ。その多くは『サクラ』じゃなかったのかあと思っていますよ」。第2次安倍政権での桜を見る会問題を引き合いに出した。一方、渡部さんの「お別れの会」に対しては、「いいですね。お別れの会に反対する人は誰もいない。やってることすら誰も気付いていない。渡部さんの国葬ですが、まったくお金がかかっていません。祭壇もメンバーが手作り。『香典は必要ありません。受け取りません』と言ったものの、心の中でほしい気持ちでいっぱいです」と爆笑を誘った。

弔辞を述べたのは安倍元首相の国葬に続き? 山本天心演じる菅ヨシヒデ前首相だった。「国民の皆さん、いま、弔辞と言えば菅ですよ」と気勢をあげると会場の拍手を浴びた。「今から述べるこの弔辞は、電通とはまったく関係ありません。ですが、ちょっと心配だったので、博報堂にお願いいたしました」と冗談からスタート。「先日の弔辞が評判がよろしいようで、『菅の言葉が初めて心に刺さった。なぜ、あの言葉が菅政権でいかせなかったのか…』と、さまざまございましたけれど、私の株はどんどん上がっています。菅待望論、再浮上論なんかも出てきましてね。もう1回、行けるのかなと」。

渡部さんは宇野ソウスケ、海部トシキ、羽田ツトム、小渕ケイゾウ、福田ヤスオと、歴代首相5人のモノマネで人気を博した。「この日本で総理大臣を一番輩出しているのは、ザ・ニュースペーパーですよ。渡部は5回の総理経験者は歴代トップですよ」。一番心に残っているのは、2000年に山本自身の結婚式でスピーチをしてくれた渡部さん扮(ふん)する小渕ケイゾウ元首相。「うちの(山本の)両親が感動いたしまして。親戚、近所に『うちの息子の結婚式で小渕総理があいさつしてくれた』って。恥ずかしいやら、みっともないやら」。

最初にあいさつしたのが、浜田太一(58)演じる岸田フミオ首相だった。パチンコ好きだった渡部さんにちなみ、「電話して言った言葉が『今忙しくて席が離れならない』。その後ろからは軍艦マーチが流れておりました」と笑いを誘った。「自分のお金をパチンコ玉に替えまして、パチンコ玉をどんどん成長させます。そしてそれを景品、お菓子に替えまして、楽屋などで我々に分配してくれました。これこそ私の言う成長から分配なんですね」。岸田首相が就任時に何度も繰り返した「成長と分配」を引用。昨年10月に北海道・小樽で行った公演で、岸田首相をまねた岸田フミオを、1度だけでも見てもらえたことが喜びだったことも語った。

続いて松下アキラ(58)演じるトランプ前大統領が米国から登場し、「パチンコ、エブリデー。ロストマネー、エブリデー」と渡部さんのパチンコの話題を継続。引き継いだバイデン大統領(こちらも松下)も「アイ ウィル ゴー ゼアー スーン トゥー」とブラックジョークで締めた。竹内康明(63)演じる習キンペイ総書記も中国から来日。「チンジャオロース、スブタ、シューマイ………」と早口であいさつ。「コノフレーズは、モトモトワタベマタベイがカンガエダシタコトよ~」。とは言いつつも、実は初めて中国人のマネをする時に渡部さんに頼み、快く許可してくれたエピソードも披露して感謝の意を表した。「ナンノ、オンガエシモデキナカッタよ、ザンネンよ。ワタシモマモナク、ソチラニイクヨ。チャイナラ」と締めた。

渡部さんのコントやテレビ出演の映像、9月13日の葬儀風景などが会場に流れると、再び、会場が笑いと涙にあふれた。福田ヤスオや鈴木ムネオの政治家の演出のみならず、1円玉や赤サンゴ、東京タワー、奇跡の一本松など、物にも扮(ふん)した数々を紹介。北海道の同郷でもある鈴木宗男氏は「渡部さんは苦労人で、人の心を十分考えてコントに出ていたと思います」とマネをする相手の気持ちに立って演じていたことを強調した。鈴木氏の特徴を捉えた名演には「政治家鈴木宗男、人間鈴木宗男を演じてくれて、愛嬌(あいきょう)、優しさを持ち合わせていると広めてくれたことを感謝しています」と話し、献花した。

渡部さんは糖尿病の影響で、04年に左足ひざ下を切断し、義足で生活していた。17年には心臓にペースメーカーを入れ、週3回の人工透析を受けながら、ザ・ニュースペーパーの活動を続けてきた。関係者によると、左足の治療のために9月1日に入院したが、手術予定だった6日に体調が急変。手術は中止され、11歳年下の妻が駆け付けたが、7日午前1時22分、静かに息を引き取った。

安倍シンゾウを演じる福本ヒデはお別れの会後、「亡くなった7日に又さんの夢を見たんです」と明かした。「『今は安倍政権とは違うから、もっとみんなの意見を取り入れてやったほうがいいよ』とかアドバイスをくれた」。お客さんの反応を見ながら舞台上で内容を変えたり、短縮したりすることが「渡部流だった」と言う。「『習うより、慣れろ』でしたね。いま振り返れば、コントが好きな又さんの背中を見てきた。足が痛くても体調が悪くても、弱音を聞いたことがなかった」。安倍元首相の死後、コントとしてどこまで笑いにして良いのか悩む時期もあったが「又さんがやっていたように、お客さんの反応を見て『ここまではやっていいな』『これは言い過ぎだな』とかを積み重ねて今があります」。

12月15日から18日には東京・銀座博品館劇場で「ザ・ニュースペーパー」の単独公演が予定されている。渡部さんが好きだった、その年に亡くなった方をしのぶコント企画も実施するつもりだ。安倍シンゾウが登場するのはもちろんだが、福本は「もしかしたら又さんが登場とかあるかも…」。メンバーが渡部さんに扮(ふん)して追悼する可能性も示唆した。【鎌田直秀】