安倍晋三元首相銃撃事件が起きた昨年7月8日当日の参院選や、2021年衆院選で話題になった香川1区の選挙戦の様子を記録したドキュメンタリー映画「劇場版 センキョナンデス」の完成披露試写会が1月17日夜、東京・渋谷で行われた。

同作に出演し、監督を務めたのはラッパーのダースレイダー氏と、毎日14紙の新聞を読み比べることで知られるプチ鹿島氏。2人が毎週配信しているYouTube番組「ヒルカラナンデス」のスピンオフ企画として収録した、選挙現場の取材の様子など60~70時間分の素材を、109分に落とし込んだ。映画「なぜ君は総理大臣になれないのか(なぜ君)」「香川1区」で知られるドキュメンタリー監督の大島新氏、同じくドキュメンタリー監督の前田亜紀氏がプロデューサーに名を連ねた。

前半は香川1区、後半は参院選の大阪選挙区を中心に、候補者の演説の様子や2人の“突撃取材”ぶりが、ロードムービーとして描かれた。陽気な音楽もまじえた構成の香川1区の様子とは対照的に、参院選期間中の7月8日の様子は、2人が目の当たりにした事象や候補者の様子が淡々と描かれた。この選挙の比例代表で当選した辻元清美参院議員が、安倍氏の訃報を知った瞬間に言葉を失う様子など、「追っかけ」でなければ分からない生々しい映像も多い。

大島氏に「新しいタイプのジャーナリスト」と評された鹿島氏は「最初はご機嫌なやじ馬珍道中だったつもりが、7月8日が1つの核になった。あの日の空気が伝われば」と振り返り、ダースレイダー氏は「記録を残すのが義務だと思った」と述べ、元首相の銃撃事件が起きた日の自分たちの率直な感情、候補者らがどう立ち振る舞ったかを目撃した思いを語った。

2人とは、「なぜ君」をきっかけに知り合ったという大島氏は「映画化の構想を相談された時、よくオレに声をかけてくれたと思った。7月8日の様子が記録として残った意味は大きい。ドキュメンタリー映画として、あの日を伝えたものとして公開するのは初めて。忘れてはいけない記録だ」と訴えた。

「選挙は最高のお祭り」とするダースレイダー、鹿島両氏にとって、統一地方選や岸田文雄首相の判断次第で衆院解散・総選挙が行われる可能性もある今年も、まさに「追っかけの年」。鹿島氏は「統一地方選もあるし、岸田さんが解散総選挙を仕掛けたら当然、行く。(ドキュメンタリーの)第2弾、第3弾ができる」と、続編製作に意欲。作品を見たコラムニストの能町みね子さんから「ドキュメンタリー界の『釣りバカ日誌』に」と、シリーズ化に期待したコメントが寄せられると、観客から大きな拍手がわいた。

2月18日から、東京・渋谷シネクイント、ポレポレ東中野などで順次公開される。【中山知子】