「ギョーザの街」として有名な栃木県宇都宮市と隣の芳賀町をつなぐ次世代型路面電車「LRT」(Light Rail Transit)が8月に開業を予定している。

国内で軌道を新設して、新しい路面電車が開通するのは約75年ぶり。地元の通勤、通学者など、1日に平均1万6000人の利用を見込んでいる。昨年11月には試運転中に脱線事故が発生したが、追加の工事を行い再発防止策を進めている。

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LRTはJR宇都宮駅東口から、芳賀町の工業団地までの約15キロをつなぐ。市の担当者によると、宇都宮駅の東側はバスなどの公共機関が不足していることから、交通渋滞が深刻だった。LRTによって渋滞は緩和する見通しで、駅東部を巡回していたバスは、ルートを再編する予定。平日は1日に約1万6000人が利用するとみられ、年間約1・5億円の黒字を見込んでいるという。

市は年々少子高齢化が進み、人口が減少傾向にあるという。高齢者の免許返納者も増加している。年間の免許自主返納者数は、00年から22年の間に約4倍に増えた。担当者は「公共交通機関で、誰でもどこにでも行ける街を目指している」と話した。

昨年11月に行った試運転では、宇都宮駅付近で脱線事故が発生した。この事故を受けて、線路などの工事費は5000万円、車体の修理には約1億7000万円かかる見通しだという。事故はレールの分岐によるS字カーブの後の急カーブで起きた。当時、時速13キロで走行していたが、強い遠心力がかかり車体が左右に揺れて、脱線したとみられるという。事故の対策としては、同ルートの制限速度を時速5キロ以下に抑えて走行する。そのほか、カーブの外側のレールと内側のレールに設けた「カント」と呼ばれるレールの高低差をなくす工事を行うという。

LRTグッズの売り上げも好調だ。運営会社の宇都宮ライトレールはトートバッグやキーホルダー、クリアファイルなどを販売している。最も人気なのは子ども用の靴下(ベビー用495円、キッズ用440円。いずれも税込み)。オンラインでも購入可能で、20年6月から販売して1000足以上が売れているという。

市は8月の開業を前に試運転を続けている。車との衝突を想定した訓練や、沿線の小学校に通う子どもを対象に乗り方や交通ルールを学ぶ安全教室を開いた。市の担当者は「安全を第一に引き続き整備を進めていく」と力を込めた。【沢田直人】

▼LRTを巡っては、06年4月に富山市が全国で初めて導入した。市などは、利用者が減り廃線の危機にあったJR富山港線を活用してLRTを取り入れた。「富山ライトレール」として引き継ぎ、JR富山駅から岩瀬浜まで約7・6キロを結ぶ。富山港線時代よりも増便したり終電を遅らせるなどの工夫を凝らした。高齢者や主婦を中心に乗客数は増加した。

◆次世代型路面電車「LRT」(Light Rail Transit)電気モーターで駆動するため環境に優しい次世代の交通システム。国外でも取り入れられている。車両と停留所の間に段差がなく、ベビーカーや車いすなどもスムーズに乗降できる。宇都宮市と芳賀町のLRTの運営は行政と民間が出資した会社「宇都宮ライトレール」が行う。市と町はLRTの整備を主体的に行う。車両の愛称は「ライトライン」。雷が多い宇都宮市と芳賀町を指す「雷都」と、道筋やつながりを表す「ライン」と組み合わせたという。車両の色も雷の稲光がモチーフとなっている。座席数は50で乗車定員は約160人。運賃は150円~400円。